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「しげって呼んでええから」
そう妹に伝えれば
小さく彼の名前を呼んだ
それにちゃんと反応してくれるしげ
Aの表情が少し柔らかくなったことに気づいたのは、俺だけだろうか
「Aって呼んでええの？」
しげがそう言えば妹は少し肩を揺らし
一拍おいて小さく頷いた
昨日から散々呼んでいるのに
何に今更驚いているのだろう
それでも、名前なんて久しぶりに呼ばれたのだろう
それを感じさせる表情は俺の胸を締め付けた
Aの言葉を聞き
そのまま家の方へ歩き出してしまったしげ
すれ違うときに何か言っていたが
それは俺の耳には届かなかった
彼女には聞こえたのだろう
去って行くしげの背中をずっと見つめていた
「さ、帰ろか」
そう告げ、返事も聞かぬまま歩き出す
が、なかなか付いてこない
振り返ると、ブカブカの靴が脱げないように必死に歩いている妹の姿があった
歩きにくいなら言えばよかったのに
彼女に声をかけ
おぶるために座り込んでも
なかなか乗ってこようとしなかった
「この体勢きついねん」
そう急かせば
躊躇いがちに俺に抱きついてきた
力を込めて立ち上がれば
しっかりと背中から体温が伝わって来る
想像以上に軽かった
女の子とはこういうものなのだろうか
それとも、ちゃんと食事をとっていないのか
細く伸びた腕は
強く掴めば折れてしまいそうで
なによりも心配になってしまった
しばらく歩いていると
背中から聞こえる寝息
昨日も疲れていただろうに
こんなに早い時間に目が覚めてしまえば眠いのも当たり前だ
起こさないようにできるだけ静かに歩く
気持ちよさそうに一定の間隔で吐かれる息は
伝わる鼓動と同調している
少しは、信頼してくれているのだろうか
それなら嬉しいけれど
家に着きおぶった妹をベッドに寝かせる
コートを脱がそうかと思ったが
寝返りを打ってしまったのでできなかった
まあいいか、とそのまま自室に戻る
俺も少し寝よう
少しで済むかわからないけど
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作者名：民 | 作成日時：2018年11月3日 16時
