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祖母と濱ちゃんが夕食の準備のため部屋を出て行った
ソワソワしているAに声をかけると
荷物の整理をしたいとのことだったので
早速部屋に連れて行くことにした
「Aの部屋は左側、ここな
俺はお前のお向かいさんやから
奥の部屋は物置な」
少し早口で説明していくと
それを必死に聞き取り小さく頷く
まだ慣れない妹という存在に
どう接していいかまだ分かっていない
ふと、隣を見ると
何やら考え込む顔をしていた
何を考えているのかは分からないが
その表情に多少なりとも不安を覚えたのは確かだった
覗き込むように腰を屈めると
心配させまいと思ったのか
Aはニコッと笑った
その笑顔は、貼り付けたようなもので
あまりにも不自然で不格好だった
お世辞にも綺麗とは言えないこの笑顔は
おそらく自分を守るために作り出したものなのだろう
しげも、そうだった
俺はその顔が大嫌いだった
笑えないなら笑わなきゃいいんだ
泣けないなら泣かなくていいんだ
自分の気持ちに嘘をつかず
ただ素直に生きればいいんだ
「そんな作り物なら、笑わんでええよ」
気づいたら、そんなことを口にしていた
しげには言えなかった言葉だ
怒っているつもりはなかったけど
出た声はたしかに怒気を含んでいた
それにびっくりしたように目をまん丸と開くAは
俺の瞳をしっかりと捉えていた
「ほんまに笑えるようになるまで、そんな無理して笑わんでええから」
Aの頭に手を乗せると
少し身を竦めて受け入れてくれる
まだ少し怖がっている妹を安心させるように微笑めば
彼女も少し表情を緩めるので
これ以上何も言うまいと自室に戻った
廊下から扉の閉まる音がする
「はぁ…」
大きく息を吐き出した
まさかAまでもあの笑顔をするとは思わなかった
だったら、作り笑いをする余裕が無い方がよっぽどよかった
胸がチクリと痛む感覚
服をぎゅっと掴んでも
それは収まらないようだった
俺が聞いた話よりも
はるかに辛い思いをしたのだろう
それをわざわざ話させるなんて無粋な真似はしないけど
一つ一つの言動や行動がAの恐怖につながらないように細心の注意を払わなければならない
この島が、Aにとって辛い場所にならないように
この島がAのきっかけになるように
自分の中にある温もりをAに少しずつ与えていかなければならない
もう、何もできずに後悔はしたく無いねん
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作者名：民 | 作成日時：2018年11月3日 16時
