涙で光るガラス (ページ44)

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あれから追いかけなきゃいけないのに

仕事を隠していた俺が、

Aちゃんを傷つけちゃったかもしれない俺なんかが、

追いかけていいものなのか考えているうちにもう姿は見えなくなっていた。

Aちゃんとは連絡がつかなくて、"向こうも仕事だから"そう言い聞かせながら都内でやるのは最後になる通し稽古。

前まで5年間出演していた別の舞台のおかげで殺陣は得意なのに

今日は小道具の刀が重く感じて、敵役の子と刀を交えた時、当たった衝撃で落としてしまった。

松田「ケイ、なんかあった？」

松倉「いや、大丈夫。ごめん」

松田「なんかあったら言えよ！」

メンバーにも心配かけてさ、俺バカじゃん。

夜遅くに稽古が終わっても返信はなくて、今日パッキングして明日の朝イチには京都に向かうから、流石にもうAちゃんがいる街まで会いに行けないし。

返信が無いから家に来ましたなんて、彼氏じゃないのに気持ち悪いだろうし。

京都にいる間、ずっと返信を待ってた。

既読もつかないから、心配になって電話してみたけどそれも通じなかったし。

ブロックされたのかな。

でも俺が京都から帰った日の翌日には会える、それだけが唯一の希望だった。

松倉「…は、閉店……？」

なのに、約束の日にカフェへ行くと古民家に立てかけられていた閉じられたA看板には"閉店"の文字。

…どういうこと？

迷惑かもしれないけど、インターホンを押して店主が出てくるのを待った。

出てきた店主は"あぁ、お兄さん待ってたよ"と俺の顔をみるなりどこか安心したように笑う。

松倉「閉店しちゃったんですか？」

店主「元々趣味程度でやっていたし、お客さんは少なかったんですけどね。Aちゃんがいないとどうもやる気が出ないというか」

松倉「いないって、その…」

店主「大丈夫、あの子は元気ですよ。よかったらコーヒーご馳走します」

店内に入れてくれた店主は、いつもの所に座っていいよと言ってくれて。

松倉「俺ずっと連絡つかなくて心配で、訳あって1か月来れなくて会えなくて…」

店主「Aちゃんとお兄さん、いい感じだと思ってたんだけどね」

コーヒーと何か包装紙に包まれた物を持ってきた店主。

店主「これ、お兄さんが来たら渡してほしいって言われてたんですよ」

コーヒーの良い香りに包まれながら、包装紙を解いていく。