涙で光るガラス (ページ32)

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『我慢なんて、できないよっ…』

松倉「え、まってまってごめん」

さっきよりも涙が溢れてきて子供みたいに声を出しながら泣いている私を、焦って抱きしめ直して背中をポンポンしてくれる。

松倉「えっと、なんて言ったらいいかわかんないけど…俺も我慢するからさ、だから」

テンパっている海斗くんの言葉で我に返る。

『ごめんね、彼女じゃないのにこんなこと言って。気にしないで』

海斗くんは優しいから、きっとこうして私の気持ちに合わせてくれているだけかもしれない。

もうお別れなのに、これ以上好きになるのは本当に嫌なの。

『…ごめんなさい』

自分から抱きついたくせに、海斗くんを押して離れて、寝室まで走る。

…私、面倒くさすぎるよ。

海斗くんは家に来たお客さんなのに困らせて

アイドルであることを隠してるのに私は知ってしまって

泊まってくれるのに私が寝室に逃げ込んで

…こんな私、素直で真っ直ぐな海斗くんとは不釣り合い。

ましてや、こんなに自己中な一般人なんて…

ベッドの中で毛布をかぶっていると、2回ノックした後にドアが開く音がする。

松倉「Aちゃん」

名前を呼ばれると同時にベッドが沈む感覚。

松倉「やっぱり、何かあったんでしょ」

毛布の中で丸まっている私の隣に座っているであろう海斗くんは、毛布の上から私をポンポンしながら優しい口調で話しかけてくる。

ポンポンしてくれているところはお尻だよ、なんてこんな雰囲気じゃ言えないけど。

少し毛布を持ち上げて隙間から海斗くんの顔を覗くと、視線は私じゃなくて真っ直ぐで部屋の壁を見つめていた。

松倉「何があったのか、教えてくれないかな」

『言えないもん』

松倉「嫌なら聞かない」

その言葉に安心して起き上がると、海斗くんは振り返って目を合わせてくる。

松倉「…って言いたいところだけど、このままだとAちゃんが離れていっちゃう気がするから」

私の両肩を掴んでくる。

…海斗くん、多分怒ってる。

『別に何も無いよ』

松倉「何も無いわけないでしょ。泣いてるんだから」

『それは…』

松倉「隠さないで言ってよ」

『海斗くんだって、隠してるくせに』

松倉「…」

あぁ、私今言っちゃいけないこと言っちゃった。