涙で光るガラス (ページ12)

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松倉「ねぇ」

『ん…？』

黒髪の海斗くん、見慣れないけどかっこいいな。

なんていうか、金髪の時よりも成人男性って感じがして…

黒髪やメイクをしてるお顔が見慣れないドキドキなのか、

雷への恐怖のドキドキなのか、

この距離へのドキドキなのか。

松倉「嫌だったら、突き飛ばして」

『え？』

耳は塞がずに手が触れた状態で、海斗くんの顔がゆっくり近づいてくる。

…待ってよ。

こんなのまるで、キスされるみたい。

もう少しで唇が触れる、息をしているのがわかるくらいの距離まで近づいたところで

『いやっ…！』

…今日の雷で、一番大きな音が鳴った。

近かったのか、少し家が揺れた。

怖い。

怖くて、身体が震える。

無意識で涙も出てきたみたいで視界がボヤける。

松倉「…ごめん、」

海斗くんの声にハッとする。

顔を上げると、海斗くんは苦しそうな顔をしていて

もしかして私、海斗くんのこと拒んだって勘違いされちゃった…？

松倉「ごめんAちゃん。俺泣かせるつもりなんてなかったのに」

ねぇ海斗くん、違うよ。

松倉「もう、しないから」

海斗くんのせいじゃないよ。

雷のせいだよ。

そう否定したいのに、さっきの雷の恐怖で上手く言葉が出なくて、ただ首を横に振ることしかできない。

松倉「ごめん、忘れて」

海斗くんがどうしてキスして来ようとしていたのか知りたいよ。

忘れられるわけないよ。

『…海斗くんのばか』

やっと声を出せたのは、海斗くんが私から手を離して立ち上がろうとした時だった。

離れていかないように腕を掴む。

松倉「ごめん」

『雷のせいだよ』

少し腕を引くと、海斗くんは静かに私の隣に腰掛け直した。

松倉「どういうこと？」

『雷が怖かったから、泣いてるし震えてるだけ』

松倉「いや、でも…」

『海斗くん、ここにいて』

"お願い"と、腕を掴んでいた手で海斗くんの左手を握る。

まだ溢れ出てくる涙を抑えきれないから、視界がボヤけていて海斗くんの表情が読み取れない。