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母ちゃんね、ぜーんぶ、知ってたよ
左手の薬指につけた指輪をなぞりながら
母ちゃんが重たい口を開いた
「小学生には、難しい話だからって話さなかったの」
「でも、剛典はAちゃんから聞いてると思ってた
だから担任の先生にもそう言っておいたんだけど
まさか剛典にも言わないでいなくなるなんてね、」
でもAは、パジャマを着替えたら入院してるとは
到底思えないぐらい顔色が良くて元気だった
もう何年も前のはずなのにまた明日、
そう言うAの顔と声が頭の中を反芻した
「剛典には父ちゃんの話、したこと無かったかな？」
「父ちゃんの・・・はなし・・・？、」
「剛典は父ちゃんのこと覚えてないんだよね、
・・・父ちゃん、病気だったの、
赤ちゃんが生まれるまで俺は死ねない！って
何ヶ月も何ヶ月も必死に生きたんだけど
剛典が無事生まれてきて安心したのかな、」
父ちゃんはすーっと眠るように
息を引き取った、らしい
母ちゃんの目を真っ直ぐみて
しあわせだった、と声を振り絞って
「Aも、・・・長くないの？」
何でだろう、
母ちゃんが今、父ちゃんの病気の話をした
ということはもしかするとそうなのかもしれないと
俺が1番、違って欲しいと思ってるはずなのに
「そこまでは母ちゃんも知らないなあ
でも、昔、Aちゃんのお家に行った時に
父ちゃんが飲んでたのと同じ薬飲んでてね、」
遠い目をした母ちゃんはやっぱり
指輪を触っていた
父ちゃんと話してるのかな
あんたの息子、こんなに大きくなったんだよって
「父ちゃん、心臓の病気だったんだけど、
子供に遺伝はしないって聞いて嬉しかったのかな」
写真でしか見たことない
父ちゃんの喜ぶ顔が目に浮かんだ
俺が1番好きな、笑顔で俺を抱く父ちゃんの写真
それは今でもリビングに飾られている
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一度だけ母ちゃんに聞いたことがあった
「母ちゃんは再婚、しないの？」
母ちゃんは迷うことなく、答えたっけ
「お姉ちゃんと、剛典のお父さんは父ちゃんだけでしょ？
母ちゃんの旦那さんも父ちゃんだけ、」
そんな風に、強く強く、1人の人だけを
たとえ二度と会えなくなっても想い続けられたら
そんな風に思った
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作者名：葵
| 作成日時：2016年6月12日 11時
