蝉の両片思い

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それは彼のバレーのすべてだと思った

「よっしゃーーーーーーー！！！！！」


たぶんこういう時漫画とか、ドラマとかだったら女の子は「やったー」って言うんだろうけど
人は本当に嬉しいときとか、興奮したときとかに出る言葉ってそんなに可愛いものじゃなかったりするもんだと思う。


頑張ってきたもんね

知ってた

手を繋ぐたびに感じてた

突き指を繰り返してきた手も、バレーの為にいつもきれいに切りそろえられてた爪も

全部この瞬間の為だったんだ




そう思い返していたらなんだか視界が霞んできて、次の瞬間には何かが頬をつたった。



きっとこの試合は勝つだろう
瀬見さんの努力は報われる
神様は本当に要るんだよ









そう思っていた


そうであってほしかったんだ









ダンッ

ピッ

ピピーーーーーーー！！！！





試合終了のホイッスルが一瞬の沈黙を破るように響きわたる



烏野 ３−２ 白鳥沢




よくコートには魔物がいるっていうけどそれはあながち間違っていないのかもしれない




無意識のうちにきつくきつく爪が食い込むほど強く組んでいた指を力が抜けたように解いた。


　
沸き立つ会場の音も耳に入らない

でも喜び抱き合う烏野の姿と、慣れない敗北に唖然とする白鳥沢


その姿だけははっきりと視界に映った



もちろん悔しそうに表情を歪める彼の姿も



それもそうだろう

きっと、白鳥沢贔屓で見ていた人は誰一人として勝利を疑わなかっただろう

それは私も同じで

悔しいの前に現実味がないんだ



「これだから神様なんて信じたくないんだよ」


きっと今一番悔しいのは牛島さんでも、天童さんでも、ましてや私でも、チームのやつでもない


瀬見さんだ








会場の撤収が行われていた


そろそろ行かないとな

観客はほとんど帰ってしまって観客席には掃除の人や、どこか知らない学校の生徒が数名屯しているだけだった。




座っていた席を立ち、外に出て駐車場に下りる階段に差し掛かった。




「A！」


誰かが後方から私の名を呼んだ


まあ、誰かなんて言ってるけどそんなのわかっているんだけど

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