三十七 ページ39
「…………あのとき、最後、貴方にあいたいと思ったんです」
「……うん」
「顔を見たら満足しましたけど、でも私、消える前に思い出したんですよ」
「うん」
「貴方の本当の名前、まだ聞けてないな、って。仲良くなってから二年とちょっと経つのに、互いの名前を知らないだなんて、嫌だなって」
「…………うん」
「『ビターズ』が死んで『バーテンさん』もやめてしまったら、貴方は私のことを呼べなくなってしまう。貴方ももう『スコッチ』ではありませんから、『緋色光』でもないんです」
「……それで?」
「このままだと私たちは、互いを知らないことになってしまうんです」
「はぁ」
「……貴方は知らないでしょうが、貴方は私の心に随分と大きく食い込んできやがってるんです」
「言い方」
「………………自分の中ですごく大切なひとが、実は自分の知らない人だなんて、よくわからないけど嫌だなあって……」
「だから、そんな訳の分からない文章で捲し立ててきたのか……」
お前は誰だとオレに言わせる隙を与えないために。そもそもオレがそんなことを言う訳ないのが分からなかったのか、彼は。
両手の人差し指をくっつけては離してを繰り返す彼を見ていると、やっぱり魔法使いってヘンなヤツなんだなという思いが込み上げてくる。堪えるつもりもなかったが、思わず声を上げて笑ってしまった。
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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時