三十四 ページ34
京也くんが喋るたび、白い息がはこりと漏れる。そこで言葉を切って京也くんが顔を凝視してくるので何かと聞けば、いえ、と彼は言う。
「美しいなぁと思って見惚れてました。……貴方の目の色って綺麗ですよね。アイスグレーの瞳だ」
「あ、」
どくん、と胸が鳴って、きゅうと締められている感覚。くすりと微笑む京也くんの顔が、バーテンさんのものに重なって、
「…………もしかして、私兄さんと同じこと言いましたか?」
「……うん、昔ね。同じ言葉を貰ったんだ」
ふわり、と笑った。
「緋色さんは、兄さんのことをたくさん好いていてくれているんですね」
にこー、っと。冬には咲かないぺかぺかの向日葵みたいな笑顔で。
「どうして?」
「どうして、と言われましても。貴方今、すごく優しい顔をしていますから」
優しい顔。無意識にぺとりと自分の顔を触った。動作が幼かったからか、京也くんが目に少し揶揄いの色をのせて笑った。
「そうだ、知っていますか? 魔女狩りには炎が用いられたんですよ」
唐突に、京也くんが口を開いた。
脈絡が掴めなくて困惑していると彼はまた笑って、魔女狩りには炎が用いられた、と言った。
「……うん?」
「たとえ弾丸が銀でできていたとしても、それは致命傷には至らないんです。魔法使いを確実に殺すには、聖なる火が必要だ」
「…………それは、どういう」
「あ、もうこんな時間ですね。これ以上暗くなっては補導されてしまいます、私はここで」
腕時計を一瞥した彼はそう白々しく付け足してぺこりとオレに一礼した後、右肩にかけていた鞄をもう一度背負い直してさっさと踵を返し去っていった。
存外早足で歩く彼を呼び止めようとしたが、視線の遠く先で彼が先程懸念した通り警察官に補導されようとしているのを見て、やめざるを得なくなった。
なんだったんだ……?
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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時