三十三 ページ33
それから時間が過ぎて、帰るとき。外への扉を開けた向こう側は冬と春の境目の景色。二月の夜七時はまだまだ暗く、ちらちら雪も降っていれば寂寥感みたいなものが湧いてきた。
悴んだのもあって紙袋を持つ手が痛くなったので反対側に持ち換えていると、前に歩いていた中学生くらいの少年がふとハンカチを落とした。
声をかけても少年は聞こえた様子もなく、どんどん歩いていってしまう。
仕方がないので紙袋を抱えて小走りで、ハンカチを少年に手渡そうとした。
「あの、これ落とした、よ……?」
纏う雰囲気が似ている、黒髪の後ろ姿。けれど彼より遥かに幼くて小さな少年が、振り返った。
似ている、と思った。彼に。
話しかけたきり黙ってしまったオレを訝しげに少年が見た後、それから差し出されたハンカチを見て納得がいったようで、礼を言って受け取った。
目を見開いて穴が開くほど彼の顔を見つめていると、ずっと訝しげな表情をしていた少年は合点がいったような顔をして、ああ、とつぶやいた。
「もしかして私の顔、貴方の知り合いに似ていたりしますか?」
実は私には兄が二人いるんです、と言って照れたように笑った少年の名はやはり、京也くんと言った。
「君は、バーテンさんの弟さんなんだね」
「はい、血の繋がりはないんですけどね。多分前世で兄弟だったんでしょうね、あまりにも似ているから私が勝手に兄さんと呼んでたら、弟になれてました」
「そうなんだ……」
「今までも二人ほど、私の顔に似た人を知っていると話しかけてきた人がいたんです。だから貴方もそうなのかなー? って」
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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時