三十 ページ30
その後。
床に座り込んで呆然とするオレを、ゼロが迎えにきてくれた。オレを組織に売った公安の上層部の一部の人間などの膿を排除できたのでバーテンさんの言っていた『ある程度』の危険は去ったことを伝えに来たそうだ。彼の代わりに。ただ『スコッチ』がNOCであることは完全に組織に露見してしまったため、これ以上の潜入捜査は不可能になったが、あまり心配はいらないらしい。
「彼はな、俺に取引を持ちかけてきたんだ」
スコッチが姿を現さなくなってから、組織ではあらゆる憶測が飛び交ったらしい。自死したとか足を洗ったとか、ビターズに閉じ込められてイロにされていた、とか。まあ最後に関しては一部合意だったが当たりだな、とため息と共にゼロが吐き出した。
「ビターズは、俺も公安からのNOCであることを知っていたんだ」
驚きに目を見開けば、ゼロは苦笑して言葉を続けた。正体を知っていると告げておきながら、バーテンさんは口止め料として何かを要求するでもなしに、なんなら組織の情報を代金に上乗せして、金のためにスコッチを売った公安の上層部の対処をしてほしいと頭を下げたそうだ。そのときに渡された情報はどれも警察庁が持っていない情報である且つ喉から手が出るほどのものだった、だからこれ以上のスコッチの潜入捜査は必要ではなく、あとは『バーボン』が組織壊滅作戦の開始に相応しい頃合いを内部から見計らうだけであると。
バーテンさんから任されていた仕事だ。
何のためかと考えていたが、このためだった。
「……ジンが廃ビルの屋上で彼の肺に穴を開けたそうだが、その後の消息が分からない。全くの不明だ。廃ビルから落下したかと思われたようだが、遺体も、血痕すら地面に残っていなかったらしい。一応、一旦は死亡と認定されたらしいが……」
まるで魔法みたいだな、とゼロが言う。
何故だか頭と心は真っ白になってしまったのがぼんやりと理解できて、でもそれなのに涙がつぅっと流れてきた。
オレのことを見ないふりするわけでも慰めの言葉を掛けるでもなくゼロ降谷零は、嫌ですよねあの一族、人の心を盗んでいったくせに俺たちを置いてどこか遠くに行くんですから、と、オレを見ているようで見ていないような目といつもと違う口調をして、まるで独り言のように呟いた。
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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時