スコッチと組織のヘンなヤツ (ページ27)

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カチカチ、カチカチ。ぼんやりとした意識に時計の針の動く音が聞こえてきて、一気に覚醒する。いつものような朝のはずなのに、体の底でなによりも大切な何かを失ってしまったような途轍もない嫌な予感がして、心臓がどくどくと早鐘を打った。

急いで体を起こそうとしたが、腰に酷い鈍痛が走って体に上手く力が入らない。その痛みに顔を顰めて、そこで違和感を感じた。
おそるおそる掛け布団を剥ぐも、オレの体は昨日のことなど何も感じさせないように綺麗に拭かれていて、その上パジャマ代わりのTシャツとスラックスを着せられていた。
記憶の中では隣で寝ていたはずの彼も隣にいない。ベッドにも掛け布団にも、彼が存在していたと言う照明をしてくれるもの(体温が残っている場所) はどこにもなかった。

サイドテーブルには古巣への連絡用のスマートフォンと、ほんの少しだけ冷えた水が入った未開封のペットボトルが二本。スマートフォンを左手に掴んで、右半身をサイドテーブルに預けてなんとか立ち上がろうとした。

たしか『スコッチ』の携帯に、ビターズの捨てアドが入っていたはずだと思い出せたが、そういえばそっちの携帯は取られていたと気付き落胆する。

バーテンさんの行った場所はどこだ。寝起きのせいでしどけないTシャツとスラックスだなんて、ロングコートを着てしまえば分からなくなる。顔を洗う時間や着替えている時間すらも惜しい。理由もよく分からないけれど、オレは何故だか、今の彼を絶対に一人にしてはいけないと知っていた。

ああそうだ、昨日の昼に感じた嫌な予感も、時計の針から感じた焦燥感も、すべてはこのためだったのだ。

半ば体当たりをする勢いで玄関のドアを開こうとしたが、まるで壁とドアの境目など最初からなかったようにびくともしない。やられた、閉じ込められた。ただ分厚い板を殴っているだけのような感覚にだんだん焦りと苛立ちで汗をかいて手がつるりと滑る。その拍子にバランスを崩してへたり込んだとき、ずっと左手に握ったままだったスマートフォンに、知らないアドレスからメールが来た。理由もないのに彼だと分かって、よく見ないままそれを開く。

『あの蓄音機とレコードを差し上げます。たくさん聴いてやってください。』

私の代わりに、とでも言いたいのか。
そう思った瞬間、ふっと目の前が目眩を起こしたみたいにぐにゃりと歪んだ。