十五 ページ15
メールで示された座標についたので車を降りてみれば、そこは鬱蒼とした森に囲まれた、寂れた教会だった。怖い雰囲気なのにどこか神聖で美しい。アメリカのホラー映画にでも出てきそうな場所で、周りの木がザワザワと音を鳴らせば、もうここは立派な事件現場だった。少し怖くなったので、心なし急いで教会の木製の軽いドアを開く。
そこはとても広くて、暗かった。礼拝堂の長椅子は全て壁の端に追いやられたり真っ二つに割れたりして、中央奥にある祭壇へ続く真っ直ぐな広い道を作っていた。
遠くで雫の滴る音と、カランカランと金属製の何かが床に落ちた音がした。反射で手に持ったハンドガンを構えて、先に歩いていく。
「スコッチ」
小さな音量だったのによく通る、聞きなれた男の声が礼拝堂に響いた。ビターズだ、と安心して構えていたハンドガンを下ろす。
ずっと聞きたかった彼の声に目を向けて、それから、思わずハッと息を呑んだ。
神様がそこにはいた。
真っ白な月光が割れたステンドグラスを受けて、黒を纏った男の白い肌にカラフルな影をのせていた。空気中のチリがキラキラと光って、まるで男自体が輝いている様に、『彼自身が神様であるように』も見えた。
黒い革靴が踏む赤い色に極彩色が混じって気持ちが悪い。あまりにも厭世的で、冒涜的で、敬虔でもあって、訳もわからず吐きそうになって思わず口を抑えた。
「スコッチ」
美しい声で彼が呼ぶ。鮮血をべっとりと靴の底に張り付けた彼は、歩くたびにびちゃびちゃと悍ましい音がした。
ビターズが、オレの目の前に立つ。クラクラするような彼の匂いに混じって噎せ返るほどの濃い鉄臭い匂いがして、オレはようやく彼が全身血塗れであることに気がついた。
「…………だめですよ、打つべき相手の目の前で、ハンドガンを下ろしては。悪しきモノには弾丸と、昔から相場が決まっているのだから」
だらんと伸びたオレの腕を掴んで、ビターズは己の心臓に向けて銃を構えさせる。ビターズはオレに背を向けて、歩き出し、祭壇に背を預けて息絶えている男の前でしゃがみ込んだ。
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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時