十二 ページ12
「……バーボンこそ、驚いた顔をしていなかったか?」
「……彼の雰囲気が、僕の探し人に似ていた気がしたので。けれど違いました。あまりにも『ビターズ』は酷すぎる」
「酷すぎる?」
バーボンは言った。ビターズは情報を吐こうとしない相手を拷問する役割で、そしてその男が『担当した』人間は皆、人間としての形をとどめなくなる。頭や精神、肉体を壊されて。小さな子供が蝶の翅を捥ぐかのごとく、道端の雑草を踏み潰すように、美しい顔をピクリとも動かさず人間を破壊するのだ。嘆きも命乞いも、まるで人間の言葉が耳に入らないかのように踏み躙られる。人間と同じ汚い空気は吸いたくないと言わんばかりにつけられたガスマスクは、まさに『人嫌いの神様』のような男の象徴みたいなモノであった。裏の社会でもその残虐性と恐ろしさと、『ビターズ』に『担当された』運の悪い人間は一人残らず殺されることから、あまりその名を聞くこともないらしい。名前自体がタブーの存在であり、組織の顔且つ半分都市伝説みたいにもなっているのだとか。
「あの男は危険です。情報を抜くにしても、そのリスクがデカすぎる」
「そうだな」
「貴方、本当に分かってます?」
「ああ」
「悪い魔法使いに魅了でもされてしまいましたか?」
「……いや」
聞き分けのない子供叱るかのような口調で、ゼロはオレに告げる。
「…………ヒロ。ビターズは極悪人だ。知っただろう?」
「ごめん、ゼロ。オレはあの人を、どうもただの悪党だとは思えないんだよ」
「何故だ」
「だって」
だって彼がビターズと呼ばれたときに、迷子になって泣きそうな子供みたいな顔になったんだ。
小さく言えば、ゼロは驚いたのか青い垂れ目を大きく見開いた。しかし、すぐに肩をすくめてしまう。それから、ふっと呆れたように笑った。
「優しすぎるのが玉に瑕だが、ヒロは人を見る目があるし、そして何より優秀だからな。……ビターズのことは、お前に任せるよ」
「ありがとう」
はぁ、とゼロは大袈裟にため息をついた。
「…………頼んだぞ」
「ああ。分かってる」
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作者名:深海 | 作成日時:2022年9月24日 21時