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「臨時集会を行います。全生徒体育館へ移動しましょう。繰り返します……」
スピーカーからの報せに、クラスメイトは不満の声を上げた。どうせサボるくせに。
本を閉じ、鞄を持って靴箱に向かう。鍵のついたあそこでないと、帰ってきたころには鞄はゴミ箱の中だからだ。面倒だけど、仕方ない。
人の波に流されながら体育館へ行くと、中はもう動物園どころの話じゃない。普段は保健室でサボっているけれど、今日はそうはいかない。
諦めて、委員長の指示に従いクラスの列に並んだ。
しばらくして、ようやく話ができる程度まで落ち着くと校長先生らしき人が舞台に出てきた。その隣には、坂田先生の姿もある。
途端に再びざわつく生徒たち。そして、刺さる視線。
「………えー、突然だが、坂田先生は退職することになった」
女子からは不満の声が、男子からは歓喜の声が上がった。
校長先生の長ったらしい話が終わると、マイクが先生に渡された。その姿は、まるでステージで輝くアイドルみたいだ。もちろん、私限定の。
「…短い間でしたけど、めっちゃ楽しかったです。みんなありがとう」
穢のない、綺麗な笑顔で先生は礼をすると舞台から退いた。そして、同時に反対側の舞台袖から新たな先生らしき人が現れた。
私はそんなものに興味はなくて、担任に嘘をついて体育館から出る。
向かうのは、私の大好きな人がいる場所。
「………せんせ、」
中には白衣を脱いだ、ラフな格好をした先生がいた。
物で溢れかえっていたデスクの上には何もない。あちらこちらに飾られていた意味不明な小物類も全部無くなっていた。
本当に真っ白になった部屋で、こちらを向いて微笑む彼だけが浮いていた。
これは、私が美化してるわけじゃない。
「先生」
「なーに?」
「好き」
保健室に居座る私に向けてくれた笑顔を見た日から。
貧血で倒れた私の手を優しく包んでくれた日から。
入学式であなたを見た日から。
ずっと、ずぅっとあなただけが。
「……愛してます、先生」
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かのこゆり - 今回もとても素敵でした…。設定もストーリーもよく考えられていて、尊敬します!同じ「スクール・ラブ」でも全然違って、読んでいて本当に楽しかったです。作者のみなさん、お疲れさまでした。最高の作品をありがとうございました! (2019年1月26日 17時) (レス) id: 1f2cd0f1d2 (このIDを非表示/違反報告)
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