＊ ページ6
*
またあとでな、と保健室を出ていった先生。その途端ツン、と消毒の匂いがした。
私は広げていたお弁当を鞄に入れ、今日提出のプリントを取り出す。電気を消し、鍵を締める。そして不在の札をかける。
靴をつっかけて歩く廊下はひどく人が多い。ギャハハ、という下品な笑い声に私まで汚くなってしまいそうで、足早に前を通り過ぎる。
まるで動物園だ。
と、心の中で嘲笑い人の少ない私の教室に入る。少し迷いつつ自分の席にたどり着いた。
机の中は画鋲やお菓子のゴミが詰まっていた。
放任主義の先生は気づくわけがない。というか、そうと分かってやってるんだろうな。
念の為持っていたビニール袋にそれらを突っ込む。時折見える紙に書かれた暴言。「ビッチ」「媚乙」「死ね」など。
だからといって、そこまで傷つかない。全く傷つかないわけじゃないけれど、どうせただの脳のない女の嫉妬や僻みだ。
こんなの気にして泣くくらいなら、坂田先生の前で嬉し泣きしたほうがいい。
袋をしばりゴミ箱に入れる。
さ、戻ろ。次は確か数学だったよね。さっさと提出しちゃお。
またキンキン声の響く廊下に出て、職員室へ急ぐ。
「……そーいやさ、坂田先生とはどんな感じ？」
ピタリ、と足が自然と止まる。横には私と同じ2年生の教室。昨日、先生を狙うなどと言っていたの人だろう。
「まぁまぁかなぁ。来週あたりに告白しちゃおっかな」
「えー、絶対イケるよ〜。それに、坂田ってJK好きなんでしょ？」
「らしい〜。つかアイツ、相原…だっけ。そいつと一日中一緒にいるらしいよ〜」
「うわ、絶対手ぇ出してるっしょ〜！」
手の中のプリントがグシャリと悲鳴をあげる。唇は血が滲んでいる。握りしめた手と、噛んだ唇がジンジンと痛むけれど、そんなものに構っていられる余裕はない。
告白？呼び捨て？手を出してる？
黙れ、黙れ、黙れ！！お前らなんかが坂田先生を語んな！！
それ以上聞きたくなくてダッと走り出す。職員室で提出物を受け取ったおじさん先生は、困ったような顔をしたが何も言わなかった。
みんなみんな、結局見て見ぬフリ。困ってる人は助けないといけない？助けてないじゃないか。偽善はいらない。
本当の善意がほしい。そして、その善意に包まれたい。
「………っ、坂田せんせ…！」
坂田先生は、私のだもん。
抱きつくと背中に腕を回してくれた。優しい優しい、私の坂田先生の匂いがした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かのこゆり - 今回もとても素敵でした…。設定もストーリーもよく考えられていて、尊敬します！同じ「スクール・ラブ」でも全然違って、読んでいて本当に楽しかったです。作者のみなさん、お疲れさまでした。最高の作品をありがとうございました！ (2019年1月26日 17時) (
レス) id: 1f2cd0f1d2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
