ふなつくん ページ18
いま、世の話題はホワイトデーで持ち切り。
彼氏からのお返しだの、好きな人から返ってくるかだのキラキラした女の子達はそういう事を話してマウント合戦が繰り広げられている。
そういうわたしには特に関係の無い話でクラスで聞くホワイトデーも、街を歩けば目にするホワイトデーも、全く興味が無い。
なにせあげたのは幼馴染の稜雅のみ。
しかも女の子にあげるついでの味見係に任命して無理やり食べさせたようなもんだから。
女の子同士の友チョコ配りなんかホワイトデーに返ってくることはまあない。
そういう理由で興味が無いわたしは3月前半をのんびり過ごしていた。
来たる3月14日の朝、いつもより少しだけ遅く家を出るとたまたま稜雅が前を歩いていた。
小走りで駆け寄って肩を叩く。
「おはよ稜雅」
「っ、お、びっくりした、Aか」
「かってなによ、かって。」
さっきまで大きく開いて歩いていた足はわたしに合わせた歩幅に変わる。
「ふあ、ねみ、」
「なんで?あ、またゲームか」
「ちげーよ、」
大きくあくびをした稜雅の眠気の原因がゲームじゃないと聞いて驚くとなんだその顔、って呆れられる。
「いや、稜雅がゲーム以外で寝不足って初めて聞いた」
「…お前のせいなんだぞ」
「え?」
ぼそりと聞こえた言葉が聞こえず、耳を傾けると立ち止まった稜雅は鞄を漁った。
「ん、」
「なにこれ」
「…マフィン」
「わたしに?稜雅が?」
はてなマークしか出ない頭で紫色のリボンでラッピングされたマフィンを受け取る。
「…ホワイトデーだろ、」
「えっ、ホワイトデー分かってたの」
「海が山ほど貰ってたから着いてったし」
隣のクラスの小笠原くんか、けど、なんで。
「…義理でも俺はAに本命でお返し渡すつもりだったから」
「え、」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でて、歩幅を広げて歩いてく稜雅の背中を見つめて立ち止まる。
「っ、言い逃げすんなよばか稜雅!」
春は、出会いと別れの季節。
わたしは出会っていた稜雅とまた出会ったみたいだ。
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作者名:逢琉 | 作成日時:2018年2月5日 14時