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―――おいらはレオにまた迷惑かけた。
チップは眠れずにいた。
昼間のことはふざけていたとはいえ、船体に穴を開けた。
1度目は海軍に捕まったとき。
この時はレオが庇って助けてくれた。レオは肩を撃たれていた。銃で撃たれた傷は怪我自体は治っても痕は絶対に消えちゃくれない。今もレオの右後ろ肩には傷が残っている。
2度目は敵の海賊に殺されそうになったとき。
振り下ろされそうなカトラスをレオは一瞬でレイピアで防いだ。
3度目は酒場で酔っ払いに絡まれたとき。
4度目は？5度目は―――
「……いっつも助けられてばっかだ」
今日だって、レオが修理代を払うって言ってくれた。
眠れずにいたチップはハンモックからそっと下りた。
甲板に人は誰もいない。
見張り台にいるかも知れないが、静かすぎるので多分寝てる。
「ごめんって、」
『………レオ？』
―――誰かと喋ってる。
「お願いだよ、ご機嫌をなおしておくれ」
「嫌よ！」
レオのところに行こうと足を動かそうとして、チップは思わず息を飲む。
レオと話しているのは、少女だった。20歳になるかならないかぐらいだろうか。
だが、すぐに人間じゃないとチップは察した。
なぜなら、その髪は紺色だったから。月明かりもカンテラの明かりも無いのにキラキラ輝く。
陶器のような肌。真っ青な瞳は金の色が混じっている。
しかたなくチップは物陰に潜んだ。
「別にあの子たちもわざとやったわけじゃない」
「だとしてもこれで何度目よ！？沈まない船じゃないのよ！私は誰よりも美しい船なのに！」
「知ってるさ、カリブ海で1番綺麗な船は君だとも」
チップは首を傾げる。
『私ってどういうことだ？』
――ギィー…………
床が軋む。
「…誰だい？」
レオの問にチップはゆっくりと物陰から顔を出した。
「チップ」
「レ、レオ。その子は…？」
レオはチップを見つめる。
「彼女は、ベルカディステイラさ」
「それは、この船の名前だよ」
「そうさ。船には女性の名前がつけられることが多い。惚れた女とかね。だから、船には女神が宿る。僕は、ベルカって呼んでるけどね」
―――――つまり、この船の女神。ベルカディステイラ。
「ねぇ、アナタかしら！？
ベルカがチップに近づき、指先で顎をつかむ。
「ベルカっ！」
レオが止めに入る。
「そうだよ、おいらが傷つけた。でも、ちゃんと、直すから」
ベルカはしばらくチップの目を見ていたが、飽きたように消えていった。
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作者名：玉うさぎ | 作成日時：2020年5月7日 21時
