10話 ページ10
履き慣れない下駄を鳴らして歩く散歩道。紺碧に染まりつつある黄昏時の空の下を傘と財布だけを手にして、提灯の揺れる道を眺めた。どうやらこの後豪雨という程ではないが一雨来るらしいという天気予報を見た為である。
数十メートル先の祭囃子と空蝉の喧噪が鼓膜を震わせていた。……祭りに来るのは、いつ振りだろうか。昔は思う存分に楽しんでいたそれも中学生になればお日さま園では見守る側になってしまう訳であって、何かに捉われながらでないというのは新鮮で息がしやすかった。勿論、いつものことに不満がある訳ではないのだが。
「そういえば、六時に時報って鳴ってる？」
「ん？鳴っとるよ、はよ帰れの合図やね」
「やっぱりそうなんだ。なんて曲なんだい？」
「ドヴォルザークの交響曲第九番、新世界より。綺麗やんね……さて、遊びとご飯どっちにしますか！」
「……とりあえず通り歩いていって、気になったものにしよう」
「はーい！……あ、ごめんちょっと寄ってええ？」
「ああ、良いよ」
からんころんと綺麗な下駄の音が響く。立ち並ぶ屋台の一つに顔を出した彼女は、何事かを店の人と喋った後に二本の塩漬けきゅうりを手にして戻ってきた。訊けば、どうやらあの店は昨日の農夫の店なのだそうで。そういえば売るとか何とか言っていたような気もする。珍しくAちゃんが知らぬ男と歩いているもんだから、と無料でくれたらしい。彼女はきっと近隣の人々にも可愛がられているのだろう。
「はい、一本」
「ありがとう。……美味しいね、これ」
「そりゃあもう採ったばっかやもん！美味しない訳あらんよ」
「タダっていうのが申し訳ないけど……ああそうだ、Aちゃん、何か欲しいものある？」
「欲しいもん？なんで？」
「お世話になってるから、何かあげたいなって」
「そんな気使わんで大丈夫やよ。……けど、言うならあれ、かな」
そう言って控えめに指を向けたのは射的の屋台の小さなぬいぐるみのキーホルダー。確か女性や子供に人気のクマのキャラクターだったはずだ。少し顔を赤らめてそっぽを向いているあたり、ああいったものをねだるのは恥ずかしいのだろうか。可愛いものが好きなのは女の子らしくて構わないと思うのだが。
店の人に五十円を渡し、おもちゃの銃と三つの玉を渡される。玉は軽いが小物くらいならどうにかなるだろう。一発、二発、三発。ころりと転がり落ちたそれとお見事の言葉を店の人に貰いながら彼女に手渡せば、照れ臭そうに頬を掻いて笑っていた。
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漣(プロフ) - 描きピーさん» 描きピーちゃんコメントありがとう〜！私にとっての「夏」という世界観を最大限綴れるように頑張ります……！ (2019年8月25日 22時) (
レス) id: 0a5e6cfb08 (このIDを非表示/違反報告)
描きピー(プロフ) - 漣ちゃん、新作おめでとうございます!漣ちゃんの執筆する「夏」をテーマにした物語は、綺麗な言葉と表現が巧みに使われていて読者の気持ちを涼ませてくれる所が凄く好きです!これからも応援しております! (2019年8月25日 21時) (レス) id: fe17964061 (このIDを非表示/違反報告)
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