14話 ページ14
ざあ、ざぶん。繰り返されるは波の音。ここで過ごす夏の昼は今日で最後なのだと思うとどうにも感慨深くなってしまい、どうせなら行かなければと帰り支度と彼女を連れて、俺達はあの車窓から見えていた青海原を訪れていた。ちなみに交通手段は自転車の二人乗りである。他愛ない話に笑いながら潮風を受けて走ってきたのだ。
水が掛かっては困るから、と脱いだ靴と靴下を波の来なさそうな場所に置いておく。そっと足をつければ冷えた海水が途端に足首までを濡らしていった。みゃあみゃあと海猫の鳴き声が空から響いていた。入道雲の輝くお昼過ぎの空の奥では、今もあの星達が瞬いているのだろう。
「冷たいんだね、海」
「岩礁とかやとそりゃぬるなっとるんやろうけど、流石に波打ち際は冷たいままやで」
「岩礁……いっぱい生物がいそうだ」
「そうやね、結構色々おるかなー」
なんとなく。ただなんとなく、彼女の元気がいつもよりもないように見えてしまって。それが何故なのかはわからないし介入するつもりもないのだが、もし自分が帰ることに関係しているのなら少し嬉しいかもしれない、などと思ってしまう自分に嫌気が差して頭を振る。折角ここまで来たのだ、最後位は楽しいことだけを考えて終わらせてしまおう。
「……Aちゃん！」
「どうし……う、わっ！？」
ぱしゃん。足元ならば大丈夫だろう、と彼女がこちらを向いた瞬間に海水を掛ければどうやら相当驚いたようで。目を真ん丸にして固まった数秒後、ぷくっとわざとらしく頬を膨らまして海に手を伸ばす。ばしゃ、笑って掛けられたそれは冷たかれど言い表せぬ暖かみが込められているような気がして、自分でも気付かない内に目尻が熱くなった。
「ちょっとタツヤくん、やりよったなー！」
「あっはは、ごめんねAちゃん、怒らないで？」
「許さんもーん！びしょ濡れで電車乗っちゃえ！」
「それは結構洒落にならなくないかな！？」
あぁ、やっぱり彼女はこうでなくっちゃ。流石にびしょ濡れで電車に乗り込むのは気が引けるからご遠慮願いたいものだけれど。
不思議と勝手に頬が緩み、口角は上がっていた。本気でサッカーをしている時と同じ感覚だった。動悸が激しくなって、血がぐるぐる巡って、自然と笑顔になって、つまりは楽しんでいる感覚だ。左胸に手を当てればどくどくと鳴る心音が掌を伝って響いていた。
それが例え人生の一刹那であったとしても、これがその人生を彩り飾っているであろうことは紛れもない事実であった。
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漣(プロフ) - 描きピーさん» 描きピーちゃんコメントありがとう〜！私にとっての「夏」という世界観を最大限綴れるように頑張ります……！ (2019年8月25日 22時) (
レス) id: 0a5e6cfb08 (このIDを非表示/違反報告)
描きピー(プロフ) - 漣ちゃん、新作おめでとうございます!漣ちゃんの執筆する「夏」をテーマにした物語は、綺麗な言葉と表現が巧みに使われていて読者の気持ちを涼ませてくれる所が凄く好きです!これからも応援しております! (2019年8月25日 21時) (レス) id: fe17964061 (このIDを非表示/違反報告)
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