13話 ページ13
灰色の雲が晴れていく。その様は濃紺の夜空の中では決して見易いものではなかった。だというのにそれが視認出来たのは、千切れた雲の隙間から幾多の星が顔を覗かせていたからであった。
まだ慣れていない眼でも数えられるだけでゆうに二十は超えている星屑の数達。美しい、なんていう在り来たりな言葉しか出てこないけれどその感情は間違いなく本物だった。
「……こんなに、見えるものなんだ」
「波止場から見るんも良いけど夜釣りの灯りが眩しいから、ここが最高やねん」
「いつもこんなに沢山？」
「日にもよるんやけど今日はええほうやよ、いっぱいやわ」
「…………綺麗だ」
大三角は見つかった。特に白鳥座の十字型はわかりやすいことこの上ないもので。ほぼ天頂を領する夏の大三角の、ベガとアルタイルを遮って奔る天の川をちゃんと目にしたのは初めてなのではなかろうか。ミルキーウェイの名にふさわしい星の道は何年前の光なのだろうか。少し視線を落とせばこれでもかというほどに煌めくアークトゥルスが見えた。流石はマイナス等級、そんな風に自分でも気が付かないくらいに独りごつ。
傘が手から落ちて草原の上に転がった。透明のビニール傘を月光の反射した雨露が伝っていく、その何てことない様子にふと食卓を思い出す。より事細かに言うなれば結露した水滴が滑るグラスのような、そんなものを。
転がった結果に逆さを向いた傘がグラスだとするならば、注がれるはずの飲料はきっとこの星空まるごとなのだろう。もっとも、こんなちっぽけな傘では到底この星団は入りきらないのだろうけれど。
「……あ、」
「どうかしたのかい、Aちゃん」
「星、流れたんよ。つい今さっき」
「本当？ちゃんと見ておけば良かったな」
「こんだけあるんやからまた流れるやろ、その間にお願い事考えとかなね」
「ちなみに願えた？」
「んん、時間足りんかったや」
じゃあ彼女の願い事は決まっていたのか、と心の中で呟く。いやだから何だという訳でもないのだが。……星に願いたいこと、だなんて探せば幾らでもあった。サッカーは今より上手になりたいし、より頼れるキャプテンを務めたいし、皆のお兄ちゃんとしてもっと格好良くなりたいし、父さんに認めてもらいたいし役にも立ちたい、それに出来ることなら、明日はまだもう少しだけ来ないで欲しい。
けれどその全ては夢でしかない戯言だから。
「連れてきてくれてありがとう、Aちゃん」
視界の端で零れた流星を横目に、俺は笑っていた。
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漣(プロフ) - 描きピーさん» 描きピーちゃんコメントありがとう〜！私にとっての「夏」という世界観を最大限綴れるように頑張ります……！ (2019年8月25日 22時) (
レス) id: 0a5e6cfb08 (このIDを非表示/違反報告)
描きピー(プロフ) - 漣ちゃん、新作おめでとうございます!漣ちゃんの執筆する「夏」をテーマにした物語は、綺麗な言葉と表現が巧みに使われていて読者の気持ちを涼ませてくれる所が凄く好きです!これからも応援しております! (2019年8月25日 21時) (レス) id: fe17964061 (このIDを非表示/違反報告)
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