・ × GD ページ8
人のこと見過ぎだっつーの。
Aの仕事柄、芸能人なんて飽きるくらい見慣れてる癖に。
あのレベルのクラブなら、日々マイナーな奴からメジャーな奴まで来てるはずだ。
だから返事をしないで人のことを凝視してくるAに「人の話聞いてんの？」なんて、ちょっと強い口調で言ったんだ。
Aから言われるお礼は、表面上のものではなくて本心で言ってるって伝わる。
言葉1つ1つの引力が、強い。
でも。
別に感謝して欲しくて送ってくって言ったわけじゃないんだけどな。
偶然見かけて時間も時間だから仕方なく…
仕方なくだよな…
いや、仕方なくだ！
Aを送ってくって言ったのは俺だけど、いざ2人になるとこれといって話すネタが見つからない。
Aは店に居るときはたくさん話しかけてきたのに、今は話すどころか車内をキョロキョロと見渡してみたり、流れる景色を眺めてみたり、まるで子供みたいだ。笑
客とかと遊びに行ったりしないのかな…？
同伴とかするにしても最終地は店だから、タクシーが多いのか。
こういう車に乗ることあんまりないのかも。
そういえば店に居たときに思ったけど、Aは話題が豊富だし、言葉遣いもちゃんとしてるし、礼儀正しい。
それは努力の賜物なのか。
それとも天性のものなのか。
「ジヨン様。」
窓の外を見ていたAが、こっちを向いたのがわかった。
Aのことを考えていた俺は、少し焦ってビクついてしまったけど、何事もなかったかのように返事をする。
「なに？」
「そういえば今日インスタに載せていた写真見ましたよ。」
インスタ？
あぁ…家族で撮ったやつを載せたんだったなそういえば…
俺のことフォローしてくれてんだ。
「そうなんだ。」
「正直言って…この前お店に来た次の日にフォローしたばっかりなんです。すみません。」
フォローするの遅くてすみませんってこと？
そんなこといちいち謝らなくていいのに。
律儀っつーか、なんつーか。
「ジヨン様はご家族とすごく仲良しなんですね。」
運転をしているから、Aの顔を見れなくて。
俺が全力で使える五感は、今は耳だけで。
Aがそう言った声が、少しだけ悲しそうな声に聞こえたのは…俺の気のせいじゃなかったと思う。
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作者名：ゆん
x他1人 | 作成日時：2014年8月16日 20時
