stay for me (ページ6)

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「お疲れー。」

事務所を出る前に時計に目をやるともう1時前だ。

こんな時間まで事務所に居るのも珍しいことじゃない。
相変わらず俺は仕事人間で、没頭するといろんなことを忘れる。

取材や収録とかのない日は、夕方から事務所に籠る。
事務所に籠る日は大抵この時間か、ひどいときは明け方まで。
時間が経つのは早い。あっという間に1日が終わっていく。

はぁ…寒くなったな…

外に出ると息が白い。

こういう時って、やたらとはぁはぁって息を吐きたくなるんだ。

すぐに消える息を見ては少し悲しくなったりして。
俺は子供か。苦笑

車に乗り込みエンジンをかけて、窓を少しだけ開けてタバコを咥える。

この時間から遊びに行くのもめんどくさいな。
帰って寝るか。明日は早いし。

あ、帰ってからあの書類にだけは目を通さないと。

「お、綺麗じゃん。」

信号待ちで見上げた月が綺麗で、少しだけドライブでもして帰るかって頭に切り替えた。

特にいいことがあったわけじゃない。
でもここ最近なんとなく心が軽くなったのはなんでだろう。

適当に車を走らせていると、人通りの少ない道に1人で歩く女の姿。

おい、もう2時過ぎてんじゃねーか。
こんな時間に危ねぇな。

後ろから見てもスラッとしていて、綺麗で妙に上品のある後ろ姿。

これで顔が良くなかったら笑えるところだ。

よし、顔を見てやろう。

って俺の変な好奇心が先行。ちょっと俺、危ないやつかもしれない。苦笑

通りすがりに女の顔を見ると
あれ…？

A…か？

もう一度Aらしき女が、通り過ぎた時に顔を見て確信。

思わず車を停めて、クラクションを鳴らす

気付いてこっちに振り向くとやっぱりAだ。

車の窓を全開に開けて、窓から少しだけ顔を出した。

「あれ、もしかしてジヨン様？今お帰りですか？」

危機感のない女。
俺がほんとの危ないやつだったらどうすんだ。

「今日もお疲れ様です。」

寒そうにコートの襟を立てていたのに。
それを直して、また綺麗な笑顔で俺に笑いかけるんだ。

労いの言葉なんてもらって、妙な高揚感。

心が軽くなったような気がする原因は、もしかしてAなんじゃないだろうか。