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仔猫が残りの時間を告げられてから、あっという間に一週間が経った。
ユンギさんは作曲の仕事をしているそうで自由が利くからと、わたしがカフェで働く間仔猫の面倒を見てくれた。
きっとわたしが来やすいようにだと思う。家事をしてくれるから寧ろ助かると、用事を頼んでくれたりした。
「おかえり。」
『ただいま... 』
ただいまと応えるのには戸惑った。けれど、ユンギさんはそれが当たり前みたいに言うから、わたしもそう返した。
「リラが次休みの日にさ、コイツの病院行か
ね?」
『元気になってますよね?』
仔猫は最初よりもミルクをよく飲むようになって固形のものも少しずつ食べられるようになっていた。
ぐったりと動かなかったのに、今は少し目を離したら寝床から出てきているし、日に日に良くなっているように見える。
「どう見てもな。」
そう言ってユンギさんは、また子供みたいに笑った。
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「君は幸運な子だね。」
病院に連れてくると、先生はとても驚いていた。
油断は大敵だけど、もう大丈夫だろうと。
『よかった... 』
この子はもう、大丈夫なんだ。
ほっとしたのも束の間で。
わたしがこの子を見るのには無理がある。
大家さんに話してみたけれど、やはりいい答えはもらえなくて。
里親を仲介してくれるボランティアの方に連絡はしてみても、歳をとった子や病気を患ってる子、この子みたいにいつ亡くなってしまうかわからない子の引き取り手はそうそう見つからないと言われてしまった。
だからと言って、ユンギさんに迷惑を掛け続けるわけにもいかない。
「...ぁ、なぁって!」
『はっ、はいっ!』
「あのさ、コイツの名前どうしようか?」
『名前... 』
「先生にも言っただろ? 最後まで見ますって。」
" この人と出会えてよかった "
今までもユンギさんには言い表せないほどの感謝をしていた。
だけどこんなに胸が熱くなるような感覚は初めてだった。
この街にも、あったかい場所があった。
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sayu_(プロフ) - 22.2.22 次のページへの送りボタンの表示がおかしくなっていため修正させていただきました。 (2022年2月22日 18時) (レス) @page1 id: 70f7b238b7 (このIDを非表示/違反報告)
sayu_(プロフ) - 読んでくれた方。お気に入り、評価してくれた方。ありがとうございます! (2021年4月17日 5時) (レス) id: 70f7b238b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sayu_ | 作成日時:2021年4月16日 21時