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先程まで水で潤っていた喉が既に渇いてしまったのは、神山くんがあの時と同じ目をしていたから。神山くんから目が離せなかったのは、彼が想像を超える力で私の手を握ってきたから。
見つめ合って数秒、神山くんが顔を近づけてきたから思わず拒否してしまった。顔を背けた私を見つめる彼が、頬を撫でた。
「Aかわいい」
「……え」
無意識に拒んでしまったというのに、神山くんはむしろ微笑んだ。神山くんのことを少しは知れているのかなと思ってたのに、神山くんという像を掴みかけていたのに、手からするりと抜けていったような。
「か、可愛くなんか、」
「自分のこと卑下するのは無し、俺のことまで否定してることになるで」
「それは…そう、なの」
「そーやで」
私の全部が欲しいと言った神山くんのことを否定することになるなら、もう少し自分に自信を持ちたいと思う。咄嗟に出たのはお礼の言葉で、でも最後まで言えなかった。
神山くんに口を塞がれたから。思わず息を止めてしまったから、早く離れてと胸を叩く。
「……っ、はぁ」
「A初めてやった？」
「え、あ…」
わざわざ口に出さなくてもいいのに、と思うと同時に神山くんは初めてじゃないんだと悟った。そんな事実に悲観する。
「誰も俺らのこと見てないで」
私たちだけ世界から切り離されたような、そんな感覚。神山くんがここから、輝かしいどこかへ連れて行ってくれる気がした。
そしてまた、神山くんがキスをした。ただ触れるだけじゃない、私の知らないこと。私の下唇を食むように何回も、執拗に触れるから思わず口を開けてしまいそうになった。隙間を縫うようなキスは、少々私には息苦しかった。
「か…かみやまくん、」
「うん、俺がゆっくり教えるから大丈夫やで」
そう言って、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「Aはどこらへん住んでんの？」
「あっち」
「あの山の方か〜実は俺もやねん」
俺バスで来たから帰りに一緒にどう？って誘われた。やはり、私が住んでる場所から海方面へのバスは存在していたんだ。
じゃあなんで、淳太くんはあんな嘘をついたのだろう。用意周到な彼が便を見逃すはずがない。
「──A」
手首に強い衝撃が走った。
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