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あれから数日後。掃除が終わり、神山くんと二人で教室に戻る。天気予報よりも強い雨が降っていて、傘が折れそうなほどの暴風雨である。
「神山くん傘持ってきた?」
「うん、Aさんは?」
「私も持ってきた」
彼と話がしたいと思って話題を振ったけれど、中身のない内容になってしまった。神山くんいつも一人でいるからと気にかけていた淳太くんと同じように、私も何かしたいけれど、結局何もできていない。
「あ。そういえば……」
神山くんが振り返る。
「その、お礼?欲しいもの…」
「あ、うん!決まった?」
「うん…」
遠慮がちに俯く神山くんの前に立つ。私が神山くんにあげられるもの、できることがあるんだって思うと思わず笑みが零れるほど嬉しかった。
ずっと眉を下げて、気弱な表情をしていた神山くんが一変、少し細まった目でこちらを見たかと思うと、強い力で抱きしめられた。容姿に反する怪力は、辟易してしまうほど。
何が起こったのか、混乱した頭が落ち着かないままに神山くんから解き放たれる。彼は見たこともない強気な表情をしていて、想像もしていなかった知らない一面に驚くしかない。
「Aの全部が欲しいな」
吐息混じりの低い声は、まるで悪魔の囁きのよう。
恐怖に変わりかけている驚きは声にも出ず、喉に突っかかったまま。その場から逃げ出す気力も出ないでいると、首元に手をかけられ、あっという間にリボンを解かれた。
「……え、っあ」
ようやく出た声はまるで嗚咽のようで、とても掠れていた。怖いわけでも彼が嫌いなわけでもないのになんだか泣きそうで上を向くと、「こっち見て」と言われた。
「あの、私の、全部って」
「A、なんでもええって言ったよな」
それはたしかに、言ったけど。神山くんの力になれるならって軽い気持ちで言ったことで。
そんな言い訳並べても無駄なのかなと思った時、彼の顔が近づいてきて、唇が触れるすんでのところで、こちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。すぐに淳太くんだと分かった。
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