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それから今までの日々が嘘のように月日は流れるように過ぎていき、淳太くんが一人暮らしをするために引越しをすると聞いたのは引越し作業の前日の深夜だった。
淳太くんにとって、私は所詮その程度だったんだと悲観しながらも、淳太くんの元へ行こうと決めた。
それは期待、未練、決別──あるいは全部？
不明瞭な気持ちに向き合おうともせず、翌日、淳太くんの家に向かった。もう荷物の運び出しが始まっていて、丁度穂花さんと目が合った。
「あ。Aちゃん！」
「こんにちは」
「手伝いに来てくれたん？ちょっと待ってな」
その時、穂花さんの胸元が寂しいことに気がつく。
「穂花さん、ネックレスは…」
「ああ、失くすと嫌やからリビングの机に置かせてもらってる」
穂花さんの笑顔は相変わらず眩しかったけれど、胸元に光る愛の結晶がないだけで何となく、彼女が脅威に思えなくなった。
リビングの机と言ったら、ダイニングテーブルとテレビの前の小さな机があるけれど、ネックレスを置いておくとしたら恐らく後者だろう。
「あれ、Aやん」
「淳太くんが引っ越すって昨日聞いたから来てもた」
「引越し作業終わったら行くつもりやったのに」
「でも私力持ちやし！手伝う！」
この場から離れてはいけないと本能的に思った。まだ頼りないその手首で何を持とうとしていたのだろう。
力持ちって自称したんやからと淳太くんに本を足されたことでバランスを崩せば、淳太くんが優しく受け止めてくれた。
「あほやな」
そうやって笑うところとか、すぐ勘違いさせるところとか、やっぱり好きだなぁって思っちゃう。当時の私は勘違いだって分からなくて、夏でもないのに全能感に支配されて、誰もいないのを確認して、リビングへ向かった。
常に私の不安材料になっていた煌めきを、側溝に捨てた。あんなに壮大で脅威だった物も、流されれば呆気ないな。
ネックレスが失くなったことに気づいた彼女の嘆きと慌てて探す作業員の喧騒から逃げるように、スタスタと家路についた。
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