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この挑発的な目、見覚えがある。脳髄に刷り込まれるほど見てきたその表情に嫌気がさすことはないけれど、どうしても胸が締め付けられる。
全部、あの時と同じ。
まだ私が、淳太くんも同じ気持ちを抱いてくれているかもしれないと自惚れていたあの日。告白計画を綿密に立てている帰り道、淳太くんと手を繋ぎ、親しげに話す女性を見てしまった。私とは違った品のある人で、思わず立ち尽くす。
するといきなり、女性が繋いでいた手を話し、淳太くんに怒鳴った。
「Aちゃんのこと、本当はどう思ってるん!?」
──え。私のこと……?
彼女と思しき女性は私のことを知ってるのか。それは間違いなく淳太くんが話したからで、どんな話をしたのかとかどんな風に話してたかとか気になることがありすぎて、有り得ない方向に想像が膨らむ。
「どうって…」
「本当はAちゃんのことが好きやないの?」
彼女がいてもなお、本当は私のことを想ってくれてるかもしれない、なんて。そんな淡い期待は呆気なく崩れる。
「Aは妹みたいな存在や」
「強がってるだけやろ。ほんとは…」
「恋愛対象としてなんか見れん」
ああ、そっか。やっぱり、そうだよなぁ。
淳太くんの中で私は、あくまでも近所に住む子供で、愛しいという感情も全て妹に捧げるようなもので、女性として見られたことは一度もないんだなぁって。
「知ってた…そんなの、知って…」
知ってたけど、分かっていたことだけど。私はずっと、多分出会った頃から淳太くんのことが好きで、淳太くんの言動に一喜一憂する日々があんなにも楽しかったのに。
その思い出ごと否定された気がして、でもそんなの被害妄想でしかないのも分かっていて。溢れる涙を拭いながら、とぼとぼと家路についた。
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