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失礼しますと一言断って中間先生の机に向かう。先生の席への道のりはもう慣れたもので、机のまとまりを三つ過ぎた後、左に曲がって一番奥。窓側の快適な場所だ。
「せんせ」
私が声を掛けると、中間先生はパソコンを閉じてこちらを向く。何やら事細かに書かれた資料のようだったけど、詳しくは見えなかった。
「ん、これな。いつもありがと」
先生がワークの山をポンポンと叩くから、重そうだなと思いつつ返事をして持ち上げた。
「手伝おか？」
出口の方を向いたら、そう声を掛けられて振り向く。思いがけない気遣いで、足元がふらついた。
「いや、でも…」
「また階段で転ばれても困るし」
「あ、あれは…！！」
中間先生が意地悪な顔をして笑うから、その場から逃げ出そうとすると別の先生にぶつかる。ごめんなさいと謝って再度振り返ると、やっぱりと言いたげな先生がそこにはいた。
「あれは、淳太くんが勝手に荷物積み上げるからや」
「Aが自分のこと力持ちって言ったから、なら持たせてもええかなぁって」
淳太くんが高校を卒業して一人暮らしを始める時、強がりだった私もわがままを言って引越し作業を手伝ったのだ。
小難しい本を何冊も運んでいると、階段を下りていると途中で淳太くんに本を追加され、バランスを崩した。幸い、淳太くんに受け止めてもらって大事には至らなかったけれど、「あほやな」と馬鹿にされた記憶がある。
「てか淳太くん、もう隠す気ないやん」
「え、なにが？」
「だから、私たちのこと」
私たちは言わずもがな幼馴染で、淳太くんが私の高校に勤めると決まった時に「俺たちのことは絶対秘密やで」と約束された。バラしたら手首折る、とか冗談だろうけど言ってた。
「俺はただ階段で転ばれたら困るって言っただけやで。引越し作業のときなんて言ってへんから平気」
何か問題ある？って顔をする淳太くん。いやいや、私からしてみたら、今淳太くんと幼馴染ってことが分かったらきっと、今よりからかわれるに決まってる。
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