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それからいつものように掃除を終えて、誰もいない教室に帰ってきた。この後寄りたいところがあるからと机の脇にあるリュックに手を掛ける。
いつもと違って肩から雪崩れてくる髪を払っていると、神山くんがこちらへやって来た。
「今日は髪結んでないん？」
いつもは髪を結んでいるから当たり前の質問ではあるのだけれど、そのいつもと違う原因は神山くんにあるから意地悪な質問をするなと思う。
どうか消えていて欲しいと願った彼の痕はまだくっきりと残っていて、下ろした髪に念入りにヘアアイロンを掛けてきたのである。
「でも、見えてたで」
「えっ！？」
急いで首元の当たりを触るけど、当然触っただけじゃ分からないものである。神山くんから見えていたということは、きっと他のクラスメイトにも見えていたというわけで……。
焦りと羞恥で頬が熱くなる私を見て、神山くんは少し可笑しそうにした。
「ネックレスが」
「……あ」
そういうことか、と一安心した。毎日付けてという言葉に頷いてしまったからには付けなければという使命感に狩られて、でもいざ付けるとなると恥ずかしくて。
彼による痕を隠す目的もあったけれど、それと同時にネックレスを分かりにくくするというのもあった。首まで熱くなった体を、ネックレスのチェーンが冷やしてくれる。
「付けてきてくれてありがとう」
柔らかい微笑みと共に、頭を撫でてくれた。昨日の詫びとはまた違う、安心感を与えてくれるような。
「よかったら、一緒に帰らん？」
私の机に手をついた彼から、優しげな声音が降り掛かってくる。本当はそれに答えたいのだけれど、それはまた無責任な選択になりそうで、私はその前にやりたいことがあって……。
「…また今度でもいい？」
「うん、えーよ。俺はいつでも待ってるから」
また明日と手を振る彼に、手を振り返した。
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