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扉も閉めずに、むしろここから逃げるなというように迫られるから背筋が凍るような感覚がした。
「…神山に何された」
冷たい目、いつもより低い声。落ち着いているように見えてその実、少し焦っているような顔にまた少し恐怖を覚える。
いくら何でも、神山くんにキスされたなんて言えない。それも一回だけじゃないから。
「そ、それは…言えん」
私の言葉に小さくため息をついた淳太くんが離れる。
「Aも言えないことあるやん。お互い様やで」
淳太くんに突き放された気がして、思わず袖を掴んだ。でもそこから、どうたらいいのか分からない。
私にも言えないことがあるように、淳太くんにだって秘密にしたいことはある。全部ありのままに見せるなんて、いくら幼馴染でも無理なことだ。だから淳太くんの言ってることは正当で、私の主張は単なる我儘。
「淳太くん、私のこと知りたいって思ってないやん」
何か言い返さなければ、そう思考して口に出たのはそんな言葉だった。
「Aのことならなんでも知りたいって思うで？」
再び顔が近づく。この雰囲気を私は知ってるから、静かに目を閉じた。
「Aに嘘はつかん」
そんな言葉に、杞憂だったかと目を開けた。何事もなかったかのように取り繕っていると、淳太くんが私の席のシートベルトを掴んで、装着しようとする。
「え、じ…自分でできるって」
「昔はいっつもやってたやん」
「もう子供ちゃうから！」
「…あ、そっか」
私が幼稚園児の時は、よく「シートベルト嫌だ」とか駄々をこねて淳太くんにしてもらってた。結局今日もしてもらう羽目になったけど、あまりにも距離が近くて、淳太くんの香水が香る。
髪サラサラだな、シャンプー何使ってるんだろ。そんなことを考えながら近い距離でドキドキしている自分を紛らわせていたら、ふと淳太くんの手が肩に置かれ、軽く耳を噛まれた。
「ぃ…あ、なに…？」
初めての感覚。私の柔らかい部分に、淳太くんの硬い歯が当たって、彼の息遣いや息を飲む音まで感知する。お願いだからこれ以上、私の単調な日常を乱さないで。
「…やっぱまだ子供やな」
悪戯っぽく笑って、淳太くんはドアを閉めた。
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