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私が毎回用事と言って誘いを断っているのは神山くんに一人で掃除させる訳にはいかないし、そもそもあの人たちと遊ぶって気が進まない。
神山くんと二人で掃除し始めてからもう一ヶ月ほどだろうか。最初こそなかなか話せずにいたが、今ではなんとか普通に話せている。
「あ。Aさんに渡したいものがあってん」
一通り掃除が終わったあと、誰もいない教室に戻った。リュックから綺麗に包装された物を取り出し、私に差し出す。
「こ、この前…気になってるって言ってた本」
開けていい?って聞いたら頷くから、丁寧な包装をゆっくりと剥がしていった。
白い包装から顔を覗かせたのは、夜空が細かいタッチで描かれた美しい表紙。それは先日、神山くんに見せてもらった写真よりも綺麗で、その本の分厚さに感動してしまった。
「ありがと」
幅広いジャンルの本を読む神山くんが渡してくれたのは、『憧憬のグラニテ』というタイトルの純愛小説。もともとこの作者の小説が好きで、中学校の朝の時間とかに読んでいたのだ。
グラニテとは、フランス料理で、シャーベット状の氷菓だ。
「あ、そうや。神山くん、何かお礼さして」
分厚い文庫本だし、安くないはず。私の提案に目を見開いた神山くんが「いやいやいや…」と一歩ずつ後退していく。
「お礼、する」
「でも…俺が勝手に、買ってきてしまっただけやから……」
「ただで貰うわけにはいかん」
私に辟易した様子の神山くんが熟考の末、頷いた。
「神山くん何欲しい?」
「え。なんやろ…」
「最近気になる本とか」
「もう予約してあるしなぁ……」
本以外に何かないかと聞いてみるが、特に欲しいものもないようだし、そもそも読書以外の神山くんの趣味を知らない。
「ほんと、なんでもええから。考えといて!」
「な、なんでも……」
苦笑いをした神山くんが「分かった」と言ってくれたけど、これは流石に押し付けがましかったかもしれない。了解してくれた神山くんにお礼を言って、私は職員室に向かった。
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