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しまった、と言うように辺りをキョロキョロしながら後ずさっていく。「大毅」と強めの語調で呼べば、「はいっ」と短い返事をして背筋を伸ばした。
「財布ほんまは持ってきてたんやな？」
「………」
「奢ってほしいならそう言えばええのに」
奢れって言ったら文句言うくせに……とかいう独り言は、この際聞かなかったことにしておいてやろう。
「やからさっきも言ったやん」
「…？」
「奢ってほしいからとかやなくて、姉ちゃんと一緒にいたいからやって」
後ずさっていたはずの足を、気付いた時には前に出している大毅が、私へ歩み寄る。離れようにも、座っている私にはどうにもできなくて。
「家で一緒におるだけじゃ足りんもん」
私の顔を覗き込んで、頬から優しく包み込まれた。
( ………大毅。 )
無意識に名前を呼んでしまいそうになる。その目線に釘付けにされないように、何とか下を向いた。
「……開き直んな…」
その波にのまれそうになる。
「開き直ってへんし、本心やし！」
「し、知らんし……！」
「知れ！」
「あ〜〜！むずがゆいって！」
頬に触れる大毅の手を剥がし、ベンチにあるパンを適当にいくつか腕の中に放り込む。そしてそのまま、逃げるようにしてその場から走り出したのだ。
熱い顔も風に当たれば少しは平常に戻るかと、戯言を思案しながら。
┈┈┈┈┈
「Aおかえり〜」
いつの間にか私の席に居座っている神野に手を振り返し、席を替わった。
どこ行ってたん？という質問に、購買が思ったより並んでたという解答をして、パンを頬張ろうとするが。思わず固まってしまった。
「あれ、Aって焼きそばパンなんか食べるっけ？」
「………」
「よくしげくんが買ってるイメージあるけど…」
神野によるひらめき豆電球の導線に、電流が流れていくのを感じる。光るまであと数秒だろうか。
「たまには焼きそばパンもええかなぁって……」
「あーーー、そうやな。たまには別のパンにもチャレンジしたいもんなぁ」
それが実際に光ったのかは分からないが、一先ずその場でこれ以上のことが起きることはなかった。
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作者名：ぴの山 | 作成日時：2023年5月25日 15時
