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「あの時は聞けんかったけど、生徒会長になろうって思ったきっかけは何かある?」
何となくとか、俺からの圧を感じたとかなら答えんくてええで!と、大きく歯を見せて笑う。
いつかもし機会があったら伝えたいと思っていたことだけれど、いざ促されると何となく言葉にしづらい。両手を握りしめて、勇気を振り絞った。
「…先輩に憧れてて」
「俺に……?」
「はい…」
何となく、ボートの進みが遅くなった気がした。
「先輩は誰にでも明るく気さくに話しかけていて、誰一人として置いていかないからこそ皆に慕われていて…」
「うん」
「私は生徒会に入った理由も立派なものは一つもなくて、一年だけど思っていたものを、先輩の存在が引き止めて…」
「うん」
「私も先輩のようになってみたいって思いました。先輩のように、言葉や関わり方で人を動かせるような人になりたいって」
きちんと言葉にできてあるだろうか、先輩に伝わっているだろうか。恐る恐る先輩の顔を覗き込もうとすれば、「まって」と手で制されてしまった。
そのゴツゴツした指の隙間から見えたのは、真っ赤に染まった耳と少しの頬。
「す…すみません、変なこと言ってしまって」
「ん?全然!」
ボートはゆっくりと水面を滑っていく。私はただ揺らされるがまま。
「Aちゃんのこと好きやなってめっちゃ思った」
その言葉の真意をぐるぐると考えながら。
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「ドーナツ美味しかったなぁ」
「シェイクも美味しかったですよね」
「分かる!甘いのに飲みやすくて最高やった」
家まで送るという提案に甘えさせてもらい、バスに乗った末、家までの道を辿っていた。
あの言葉に他意はないのか。ないのだとしたら、あれは告白と受け取ってあいのか。告白だとしたら、私はどう答えたいのか。
未だ思考は支配されたままである。──そんな折。
「うわ、雨や!」
いきなりの大雨が私たちを襲い、急いで近くの屋根にて雨宿りをさせてもらうことに。天気予報を見ると、朝は快晴だったものが大雨に変貌している。
まるで漫画にありがちなその展開が今、目の前で起こっている。
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作者名:ぴの山 | 作成日時:2023年5月25日 15時