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それから三十分ほど経ち、八時。
私は二階にいるであろう大毅のパタパタという足音を聞きつつ、アイツを待っていた。
大毅は毎日制服をだらしなく着ているから、私が家を出る前に毎日点検しているのだ。
制服の乱れは風紀委員として見過ごせない、と言うのも勿論あるが、風紀委員長の桐山照史先輩に不審に思われたくないのだ。Aちゃんの弟なのにだらしないな、なんて言われた暁には大毅を呪い殺してしまいそうである。
「ねむ…」
「昨日夜更かししてエ ロ本見てたんやろ」
「は！？違うし！エ ロ本なんか持ってないし！」
「いや持ってたやろ、なんでまだそこ認めてないねん」
だって私が見た次のページ絶対脱いでるし。表紙の浅沼ナミコさんがこれはエ ロ本ですと言わんばかりに笑っていたし。
「流星やって絶対見てるから」
「なんでここで流星くんの名前出てくんねん」
「エ ロ本見ん男子高校生とかおらんから！！」
ワーーー！と勢いのまま飛び出そうとした大毅の肩を掴み、何とか戻せた。ネクタイが上手く締まっていないので、仕方がないから私が結ぶ。
「大毅いつになったらちゃんとネクタイ結べんねん」
「え、あ……ご、ごめん…」
突然先程までの威勢が嘘のように大人しくなる。これはこれで気持ち悪いな……。
( ………あ。)
もしかして──。
「…照れてる？」
「は！？て、照れてへんし！だーれが姉ちゃんなんかにネクタイ結んでもらって照れるか！アホか！」
「顔赤いで、大毅。素直に言った方が楽やで」
「い、意味分からん！てかはよ結べやー！」
ネクタイを結ぶ際に指先で触れた首元が熱くて、そんな照れることか？と最早若干引きつつ。あまり攻防を繰り広げても遅刻してしまうのでこのくらいにしておこう。
自転車登校の大毅に対し、私は優雅に徒歩登校である。自転車は疲れて汗の処理が大変そう、という理由なだけなのだが。
駐車場に止めてある自転車に鍵を指した様子を見届けて歩き出そうとした時、「姉ちゃん」と呼び止められた。サドルに跨る大毅は、呼び止めたくせに言い淀んでいる。
「…流星がいいん？」
「え、何が？」
「だ、だからっ」
自転車に跨ったままこちらへ突進してくる大毅。「危な！」と反射神経で横にズレると微妙な顔をされた。
「エ ロ本見る男は嫌い？」
「は？」
俯く大毅が自信なさげに顔を上げ、何故か上目遣いで私をじっと見ている。
「好きやないな」
だからちょっと意地悪したくなったのだ。
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