ガラスの靴で息絶えて【夏JW】 (ページ41)

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シートベルトを締められる際も何も出来なくて、濡れた腕や肩が触れ合って、身が震えた。

私がシートベルを外して車を出る前に、先生が運転席に乗り込み、そのまま発進してしまった。

「…すみません、わざわざ」

お礼の言葉にも黙っている桐山先生。無視を決め込んでいるというよりは、それどころではないという顔であった。

フロントガラスへ際限なく打ち付けられる雨、止まないワイパーの往復。覚えのある甘い香りがした。

「……あ。」

いつも左折する道を、先生は右に曲がった。思わず声が漏れる。

「先生、さっきの左だったんですけど……」

おずおずと彼を見るけれど、未だ無言。ずっと前だけを見つめ、運転に専念しているようだった。

ゾワリ、となんだか嫌な予感がして、肩が震えた。

そういえばずっと、桐山先生は私に寄り添おうとしてくれていたのに、どうしてそれを受け入れられなかったんだろう。

頭を悩ませ、視線を落とすと、ふとグローブボックスが目に入った。

( …………あ。)

鮮明に思い出される光景。

グローブボックスからはみ出た写真に写る、全身を縛られ、こちらを怯えた表情で見る女性の姿。

「……あぁ…………」

そっか、だから私は。この人の、この男性のことを避けていたんだ。

( どうして忘れていたんだろう。)

張られた罠に飛び込んだのは、私だ。

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