恋をするとバカになるなんてさ ページ29
「バカな女だな」
『知ってる』
散々私を抱いたくせにバカだと口にする樹は本当に狡い。
「この前、困るかって聞いたよな。」
『え？』
「お前が師匠と別れても、俺は困らねえよ。
俺はお前の好きにすりゃあ、いいと思ってるよ。」
何よ今更。別れたってあんたとの未来なんか見えやしないのに。
『別れないわ。』
「あっそ。」
樹は顔色ひとつ変えずに興味のなさそうな答えをした。
そんな樹の頬を両手で覆ってキスをした。
これでもかと激しく。深く。
それに応えてくれるように彼はめちゃくちゃに私を抱いた。
これだと確信する。
私の求めてるものを全てくれるのはきっとこの世で樹ひとりなんだと。
目が覚めると隣に樹の姿はなくて、リビングにいくと、キッチンの換気扇の下で煙草を吸う姿を見つけた。
「お前なんかあった？」
私の存在に気づいた樹は変だぞ今日なんて言った。
『なんもないよ。』
『あの、さ、男の人ってさ、好きな子の嘘には気づかないふりして、大事なものを扱うように優しくするもんなの？』
「まあ、そうだな。
優しくはしたいよね。」
そう言って樹は口から紫煙を吐き出してからまた口を開いた。
「でもそうだな。
受け入れてくれることが分かっていれば、優しいだけじゃなく自分の思うままに接することもできるよな。
好きだからこそ湧く感情ってもんがあんだろ？」
『要はよく見せようと抑制してるってこと？』
「そうかもな。
あとなんだっけ？ああ、嘘に気付かないふりするかって、
いや、俺は無理だな。気になる。」
『…そう、だよね。
なんでなんだろう。』
「は？もしかして、バレてるってこと？」
『あんたね、あんな香水纏って帰ってバレないわけないじゃない。』
「ああ、」
『ああ、って何よもっと焦るでしょ普通』
「いいじゃん？気づかないふりしてくれてんだから。
理由があんだろ師匠にも。」
『あんたそれでも彼の仲良い後輩！？』
「それとこれとは別。
わざわざ女のことで揉めたりしねえよ大人なんだから。」
そう言われればそうだと納得してしまう。
男子高校生じゃないんだし、ね。
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作者名：芹澤 | 作成日時：2023年2月21日 16時
