20話 ページ43
警部は何て言えばいいのかわからないのだろう。
静かに席を立ってしまった。
その姿を目で追ってあたしとはじめちゃんは思わず俯いてしまう。
警部には辛い真実だったかもしれない。
紫乃さんは、座り込んでいる龍之介の方へとゆっくりと体を向けた。
紫乃「龍之介。ごめんなさいね、あなたを一目見るだけだったのに」
恐る恐る紫乃さんを見た龍之介。
龍之介「俺を見るあんたの目…あれは憎しみの目だとずっと思ってた。でもそうじゃなかったんだね。……あの目は、俺を見るあの目は…」
紫乃さんはゆっくりと微笑んだ。
その微笑みに龍之介が思わず俯くと、紫乃さんは先程龍之介にもらったお茶を一気に飲みほした。
龍之介「飲んじゃダメだ。飲んじゃダメだ!!」
龍之介は急いで紫乃さんに近寄って湯呑みを彼女から引きはがす。
だけどもう遅くてお茶は紫乃さんの喉を通ってしまっていた。
紫乃さんの口の端から血が流れるのを見たあたしたちは思わず目を見張る。
龍之介「俺は…何てことを…っ」
紫乃さんは龍之介を見て目を細めると、ゆっくりと彼の腕の中に倒れ込んだ。
警部が「紫乃さん!」と傍に膝をつく。
『龍之介さん、あんたお茶の中に…!』
紫乃「違うの。違うんです。お茶に毒を入れたのはわたし…自 殺するために…自分で毒を…」
途切れ途切れにそう言う紫乃さんに、あたしたちは何も言えなかった。
子供を庇おうとする親の心が何よりも痛くて……。
龍之介は顔を上げて震える声で「俺が…っ」と言ったけど、紫乃さんはすぐに「違うの」と力を振り絞って体を起こして彼を真っ直ぐに見た。
紫乃「龍之介、わたしが自分で毒を……いいわね、龍之介…っ」
龍之介「母さん…っ」
紫乃「あなたの顔…わたしに見せて…」
ゆっくりと龍之介の頬をなぞる紫乃さんの手。
紫乃「龍之介……ごめんなさいね…っ何にもしてあげられなくて…」
龍之介が首を横に振るのを見届けて、紫乃さんは龍之介の腕の中へと倒れ込んだ。
もう、彼女の意識はなかった。
そんな彼女の体を龍之介はぎゅっと抱きしめる。
龍之介「母さん…………母さん…？……母さん!!……………母さん!!!」
今やっと母と子の絆が生まれたような気がして。
悲しい叫びが辺りに響くのをあたしたちは黙って聞いていた。
あたしの肩に顔を埋める美雪の肩を抱き寄せながら、あたしは涙をこらえてその光景を、はじめちゃんと手を繋ぎながらじっと見つめていたのだった。
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セレーナ - この作品も面白いわ^ ^名探偵コナンと暁のヨナの作品を早く更新して欲しいわ。頑張って (2020年2月8日 1時) (
レス) id: a3d3399358 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみん - あああ、もうはじめちゃんは、彼女ちゃんがいるのに、お姉さんナンパかあ、次回は楽しみにしてます (2019年12月21日 13時) (レス) id: 5c9701a404 (このIDを非表示/違反報告)
にー - 突然すみません！ここのお話とは関係ないのですが名探偵コナンはいつ頃更新されますか？教えてください (2019年12月7日 9時) (レス) id: 2e8392d2ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さきっち
| 作成日時：2019年11月29日 19時
