第196話 「甘雨」 ページ1
夜明け前。
みんなが布団にくるまって眠る横で一つの影が布団から起き上がった。
両隣で寝ているヨナとカナを一瞥して、ぐっすりと寝ているのを確認するとゆっくりと音をたてないように布団から抜け出す。
そして向かった先は壁に寄りかかって眠るハクの所で。
その影はハクの懐にある短剣をスッ…と静かに取り出そうとした…が、ガッとその手を掴まれた。
「何してんだ姫さん」
『お、おはようハク』
目の前にいる人影を呆れた顔で見るハクに、人影―――Aは冷や汗を垂らし、苦笑した。
そして皆を起こさないように川の近くへと移動する2人。
「剣術を教えてほしい?」
ハクの問いかけにAはコクンと首を縦に振った。
そんな彼女にハクは呆れながらコクンじゃねーよと目の前の桃色の少女を見る。
「教えを乞おうとする人間は寝てる奴の懐弄って剣盗んだりしません」
『ちょっと借りようと思ったの』
『ハク寝てたから』とAは自分の目の前でしゃがみ込んでいるハクを見た。
2人ともイクスの家から出た後、生垣に隠れるようにその場にしゃがみ込んでいたのだ。
「盗っ人には貸しません。俺ァ寝る」
『待って、私が悪かった。真面目に言うわ』
すぐさま帰ろうと体を反転するハクの服をがしっと摑む。
『ハク、剣を教えて。私、強くなりたい。どうしても力が欲しいの』
振り向かないハクの背中を見ながらそう言ったAをハクは振り返った。
「…前にそれで弓を渡しましたよね?」
『弓の練習を怠るつもりはないわ。でも、もしもの時の為に剣も使えた方が良いと思うの。お願い、ハク』
紫の瞳が黒の瞳をじっと見つめる。
数秒の見つめ合いが続き、ハクが目でダメだと訴えても引き下がらないAを見て、ハクは目を細めた。
紫の瞳に映る覚悟を見るのが辛くて目を逸らす。
「剣は…渡しません」
『ハク!お願い、私一刻も早く…』
「それより、お肌のお手入れをしたらどうです?」
ハクの言葉に思わず目を丸くした。
「日に焼けてボロボロでせっかくあった色気がゼロですよ」
『な…』
「これで剣なんか持ったら本当に嫁の貰い手ありませんよー」
『あっハク!待ちなさい!』
がんっとショックを受けるAに背を向けてハクは「目指せ女子力アップー」と言いながらイクスの家に戻っていった。
その背中にAが声をかけるが、ハクはそのまま去って行ってしまう。
Aはそれを見送ってぷうっと頬を膨らました。
『…っハクのバカっ』
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石川聡子(プロフ) - 続きは書きませんか? (2021年6月21日 15時) (レス) id: 47ccef0445 (このIDを非表示/違反報告)
aya(プロフ) - 続きが気になります!! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 6f987f8235 (このIDを非表示/違反報告)
あーむ(プロフ) - ここの暁のヨナが大好きなのでお忙しいとは思いますが更新頑張ってほしいです(>_<) (2019年11月19日 9時) (レス) id: 10f360c237 (このIDを非表示/違反報告)
アイ(プロフ) - 1話から見ましたがすごく楽しくてもう一日かけて読みました!!!!!!たのしすぎて早く続きが読みたいです!!これからも応援してます!頑張って下さいっ* (2019年7月28日 0時) (レス) id: 20429ecf64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきっち | 作成日時:2019年7月24日 17時