57話 『かすかな悲鳴』 ページ10
貴方side
運悪くリザードマンの集団に遭遇してしまい、僕たちが最上部の回廊に到達した時には安全エリアを出てから三十分が経過していた。途中で軍のパーティーに追いつくことはなかった。
クライン「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ？」
シュン「そんなすぐに引き返すような奴らじゃねえだろ」
『シュンじゃあるまいに』
シュン「どういう意味だ」
怖い顔でこっちを振り返るシュンを無視して気持ち足早に先へと進む。
「あぁぁぁぁぁ…………」
かすかに聞こえたそれは、まちがいなく悲鳴だった。
モンスターのものではない。僕たちは顔を見合わせると、一斉に駆け出した。敏捷力パラメーターに優る僕とシュンとキリト君とアスナがクラインたちを引き離してしまう格好になったが、この際構ってられない。青く光る濡れた石畳の上を、先ほどとは逆の方向に風の如く疾駆する。
やがて、彼方にあの大扉が出現した。すでに左右に大きく開き、内部の闇で燃え盛る青い炎の揺らめきが見て取れる。そしてその奥で蠢く巨大な影。断続的に響いてくる金属音。そして悲鳴。
アスナ「バカッ……!」
アスナが悲痛な叫びを上げると、更にスピードを上げた。僕たちも追随する。システムアシストの限界ぎりぎりの速度だ。ほとんど地に足をつけず、飛んでいるに等しい。回廊の両脇に立つ柱が猛烈なスピードで後ろに流れていく。
扉の手前でシュンとアスナとキリト君が急激な減速をかけ、ブーツの鋲から火花を撒き散らしながら入り口ギリギリで停止した。だが僕は急な事に止まることが出来ず、目の前にいたシュンにそのまま激突した。
シュン「『Σあだ!?』」
シュン「……っランカ!!」
『急に止まるからでしょ!?』
キリト「おい!大丈夫か!」
額を抑えながら顔を突き合わせて言い合っているその隣でキリト君が叫びつつ半身を乗り入れた。それに僕とシュンも中を覗く。
扉の内部はーーー地獄絵図だった。
床一面、格子状に青白い炎が噴き上げている。その中央でこちらに背を向けて屹立する、金属質に輝く巨体。青い悪魔ザ・グリームアイズだ。
禍々しい山羊の頭部から燃えるような呼気を噴き出しながら、悪魔は右手の斬馬刀とでもいうべき巨剣を縦横に振り回している。まだHPバーは三割も減っていない。その向こうで必死に逃げ惑う、悪魔と比べて余りにも小さな影。軍の部隊だ。
もう統制も何もあったものではない。咄嗟に人数を確認するが、二人足りない。
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
