55話 『マップの提供』 ページ8
貴方side
男は僕たちの前で立ち止まると、ヘルメットを外した。身長でか。三十代前半といったところだろうか、ごく短い髪に角張った顔立ち、太い眉の下には小さく鋭い眼が光り、口元は固く引き結ばれている。じろりとこちらを睥睨すると、男は先頭に立っていた僕に向かって口を開いた。
コーバッツ「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」
なんと。《軍》というのは、その集団外部の者が揶揄的につけた呼称のはずだったが、いつから正式名称になったのだろう。そのうえ《中佐》と来た。僕はやや辟易しながら、『ランカ。ソロだ』と短く名乗った。
男は軽く頷き、横柄な口調で訊いてきた。
コーバッツ「君らはもうこの先も攻略しているのか？」
『……まあね。ボス部屋の手前まではマッピングしてある』
コーバッツ「うむ。ではそのマップデータを提供して貰いたい」
当然だ、と言わんばかりの男の台詞に僕も少なからず驚いたが、後ろにいたクラインはそれどころではなかった。
クライン「な……て……提供しろだと!?手前ェ、マッピングする苦労が解って言ってんのか!?」
胴間声で喚く。未攻略区域のマップデータは貴重な情報だ。トレジャーボックス狙いの鍵開け屋の間では高値で取引されている。
クラインの声を聞いた途端男は片方の眉をぴくりと動かし、ぐいと顎を突き出すと、
コーバッツ「我々は君ら一般プレイヤーの開放の為に戦っている!」
大声を張り上げた。続けて、
コーバッツ「諸君が協力するの当然の義務である!」
ーーー傲岸不遜とはこのこと。ここ一年、軍が積極的にフロア攻略に乗り出してきたことはほとんどないはずだが。
アスナ「ちょっと、あなたねえ……」
クライン「て、てめぇなあ……」
左右から激発寸前の声を出すアスナとクラインを、しかし僕は片手で制した。
『どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだし、構わないよ』
シュン「人が好すぎだろ、ランカ」
『君は僕のことよく知ってるだろう？それにマップデータで商売する気はない』
キリト「ランカ……」
不安そうなキリト君を一瞥しながらトレードウインドウを出し、コーバッツ中佐と名乗る男に迷宮区のデータを送信する。男は表情一つ動かさずそれを受信すると「協力感謝する」と感謝の気持ちなどかけらも無さそうな声で言い、くるりと後ろを向いた。その背中に向かって声をかける。
『ボスにちょっかい出す気ならやめといた方がいい』
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
