93話 『進路北北東!』 ページ46
貴方side
キリト「そ、そりゃそうかもしれないけどなぁ……。おまえ、いい歳こいて……」
『歳は関係ないじゃないか!いいじゃんか、誰が見てるわけでもないし』
キリト「シュンとアスナが見てるだろ……。まあいいけど……」
キリト君は呆れたように首を振りながらしゃがみこみ、背中を僕に向けた。僕はアスナにシュンの目を隠すように目配せして、スカートをたくしあげ、その肩にまたぐように両脚を乗せる。
『おけー。でも後ろ見たら引っ叩くからねー』
アスナ「大丈夫だよ、ランカ。わたしが力いっぱい叩くから」
キリト「なんか理不尽じゃないか……？」
ぶつくさ言いながらもキリト君が身軽な動作で立ち上がると、それにつれて視点が一気に上昇した。
『わあ!ほら、ここからもう湖が見えるよ!』
キリト「俺たちは見えないよ!!」
『じゃあ、あとで僕もやってあげるからさぁ』
シュン「いや、それもそれで嫌だろ……」
ぽつりとつぶやいたシュンを睨みつけてうなだれるキリト君の頭に手をかけ、僕は言った。
『さ、出発進行!進路北北東!』
てくてくと歩き出したシュンとアスナとキリト君の肩の上で僕はアスナを見た。シュンと手を繋ぎながら歩き、僕たちと会話をするアスナは屈託なく笑っていた。うん、いい思い出ができるかもしれない。僕はそう思いながら三人との会話に花を咲かせた。
小道を歩き出してーーー実際に足を動かしているのはキリト君とアスナとシュンだけだがーーー十数分後、二十二層に点在する湖のひとつに差し掛かった。穏やかな陽気に誘われてか、朝から数人の釣り師プレイヤーが湖水に糸を垂らしている。小道は湖を囲む丘の上を通り、左手に見える湖畔まではやや距離があるが、近づくうちに僕たちに気づいたプレイヤーたちがこちらに手を振ってきた。どうやら皆笑顔で、中には声に出して笑っている者もいる。
キリト「……誰もいなくないじゃん!!」
『あはは、人いたねー。ほら、シュンとアスナみたいにキリト君も手を振りなよ』
キリト「ぜったい嫌だ」
文句を言いながらも、キリト君は僕を下ろそうとはしなかった。内心では彼もおもしろがっているのが僕にも解る。
やがて道は丘を右に下り、深い森の中へと続く。杉に似た巨大な針葉樹がそびえる間を縫って、ゆっくりと歩く。葉擦れの囁き、小川のせせらぎ、小鳥のさえずりが晩秋の森景色に美しい伴奏を添えている。
僕は、いつもより近くに見える木々の梢に視線を向けた。
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
