89話 『愛おしい』 ページ42
貴方side
チラリと隣にいるアスナとシュンを見てから視線を前に戻す。後ろから感じるキリト君の温もりに思わず笑みが零れた。風に靡く髪の毛を抑えていると僕を抱く腕に強く力が込められた。
『痛いよキリト君……。どうかしたのかい……？』
キリト「ご……ごめん……。なあ、ランカ……」
一瞬口籠もる。そんなキリト君に続きを托すように腰に回された腕にそっと手を添えた。
キリト「……俺たちの関係って、ゲームの中だけのことなのかな……？あの世界に帰ったら無くなっちゃう物なのかな……」
『怒るよ、キリト君』
余計な事を考えちゃってまあ……。チラリと隣を見れば、アスナとシュンも不安そうな顔でこちらを見ていた。あの二人も同じことを考えていたのだろうか。
ゆらゆらと揺れる二人の瞳を見て僕は、ふぅ…と小さく息を吐いた。
振り向いた僕は、純粋な感情が燃える瞳をひたと向けた。
『たとえこれが、こんな異常事態じゃない普通のゲームだとしても、僕は遊びで人を好きになったりしない』
両手でキリト君の頬をぎゅっと挟みこむ。
『僕、ここで一つ覚えたことがあるんだ。諦めないで最後まで頑張ること。もし元の世界に戻れたら、僕は絶対キリト君ともう一度会って、また好きになるよ』
ふわりとキリト君を見つめて微笑む。
遊びで人を大切だと愛おしいと思わない。僕はこの世界にいるアスナだから大切だと守りたいと思う。この世界にいるシュンとサクラとリュウだから大切だと思う。この世界にいる……キリト君だから大切だと、愛おしいと思うんだ。
それはこの世界に限られたことじゃない。たとえ、このゲームから出られたとしても僕はずっとキリト君たちを大切だと思い続ける。
アスナ「そうだね。また出会えばいいんだもんね」
隣にきたアスナがニコッと笑いながら僕の腕に自分の腕を絡めて肩に頭を乗せる。そんなアスナに笑いかけ、シュンを見るといつもの笑みを浮かべてキリト君に歩み寄った。
シュン「俺とキリトの関係も、アスナとランカの関係も何も変わらないぜ」
お互いが大切な親友。
その関係はこのゲームから出ても変わらないこと。また出会えばいい。そしてまたこの関係を作ればいいのだ。
僕とアスナとシュンに微笑みかけられたキリト君は安心したように笑いながら僕の頭を撫でて、シュンとアスナに頷いた。
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
