85話 『君のものだ』 ページ38
キリトside
『……ごめんね……ぼくの……僕のせいだね……』
悲痛な表情で、震える声を絞り出した。大きな目から涙が溢れ、宝石のように美しく輝きながら次々に滴り落ちた。俺も、からからに渇いた喉で、どうにか短いひと言を音に変えた。
キリト「ランカ……」
『ごめんね……。ぼく……も……もう……キリト君には……あ……会わな……』
ようやく感覚の戻ってきた体を、俺は必死に起こした。全身に与えられたダメージのせいで不快な痺れが残っているが、右腕と、切断された左腕も伸ばしてランカの体を抱き寄せた。そのまま、桜色の美しい唇を自分の唇で塞ぐ。
『……!』
ランカは全身を硬くし、両手を使って俺を押しのけようと抗ったが、あらん限りの力で俺は細い体を抱きしめた。間違いなくハラスメント防止コードに抵触する行為だ。今ランカの視界にはコード発動を促すシステムメッセージが表示されており、彼女がOKボタンに触れれば、俺は一瞬にして黒鉄宮の監獄エリアに転送されるだろう。
しかし俺は、両腕をわずかにも緩めることなく、ランカの唇から頬をなぞり、首筋に顔を埋めると、低く呟いた。
キリト「俺の命は君のものだ、ランカ。だから君のために使う。最後の瞬間まで一緒にいよう」
三分間の部位欠損ステータスが課せられたままの左腕でいっそう強く背中を引き寄せると、ランカは震える吐息を漏らし、ささやきを返した。
『……僕も。僕も、絶対に君を守る。これから永遠に守り続けるから。だから………』
その先は言葉にならなかった。固く抱き合ったまま、俺はいつまでもランカの嗚咽を聞き続けた。
触れ合う全身から伝わる熱が、凍った体の芯を、少しずつ、少しずつ溶かしていった。
キリト「……君は……何があろうと還してみせる……あの世界に……」
俺のその言葉にランカはこくりと頷いた。それを見て俺は顔を上げる。
キリト「ランカ……今日は……今夜は、一緒にいたい……」
無意識のうちにそんなことを口にしていた。彼女と離れたくなかった。愛しくて愛しくて仕方がないこの少女と離れたくなかった。
ランカは俺の言葉に目を見開いていたが、やがて、両頬を染めながら小さくこくんと頷いた。
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
