77話 『君を守る方』 ページ30
キリトside
メンバーはパニックを起こし逃げ惑った。俺は、今まで彼らのレベルに合わせて隠していた上位剣技を使い、どうにか血路を開こうとした。しかし、恐慌状態に陥ったメンバーは通路に脱出することもままならず、一人また一人とHPをゼロにして、悲鳴と破片を撒き散らしながら消えていった。彼女だけでも救わなければ、そう思って俺は必死に剣を振るい続けた。
しかし間に合わなかった。こちらに向かって助けを求めるように必死に手を差し出したサチを、モンスターの剣が無慈悲に切り倒した。ガラスの彫像のように儚く砕け散るその瞬間まで、彼女は俺を信じ切った目をしていた。彼女はひたすらに信じ、縋っていたのだ。何の根拠もない、薄っぺらい、結果的に嘘となってしまった俺の言葉に。
ケイタは、今まで仮の本部としていた宿屋で、新居の鍵を前に俺たちの帰りを待っていた。一人生き残った俺だけが戻り、何があったかを説明している間ケイタは無言で聞いていたが、俺が話終わると一言、「なぜお前だけが生還できたのか」と訊ねた。俺は、自分の本当のレベルと、ベータテスト出身なのだということを告げた。
ケイタは、異物を見るかのような無感情な一瞥を浴びせ、一言だけを口にした。
ーーービーターのお前が、僕たちに関わる資格なんてなかったんだ。
その言葉は、鋼鉄の剣のように俺を切り裂いた。
アスナ「……その人は……どうしたの……？」
キリト「自 殺した」
アスナとサクラの体がビクリと震えた。
キリト「外周から飛び降りた。最期まで俺を呪っていただろう……な……」
自分の声が詰まるのを感じた。俺は歯を食いしばった。ランカに手を差し伸ばし、救いを求めたかったが、お前にはその資格はないーーーと心のどこかで叫ぶ声がして、両の拳を固く握る。
キリト「みんなを殺したのは俺だ。俺がビーターだってことを隠してなかったら、あの時トラップの危険性を納得させられたはずなんだ。ケイタを……サチを殺したのは俺だ……」
不意にランカが立ち上がり、二歩進み出ると、両手で俺の顔を包み込んだ。穏やかな微笑を湛えた美しい顔が、俺のすぐ目の前まで近づいた。
『僕は死なないよ』
キリト「……!」
『だって、僕は……僕は、君を守るほうだから』
そう言って、ランカは俺の頭を胸に包み込むように抱いた。柔らかく、暖かな暗闇が俺を覆った。
『絶対……大丈夫だよ』
俺は……今、君がどうしようもなく愛おしくて仕方ないよ。
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
