66話 『大変なことになっちゃった』 ページ19
貴方side
フロア攻略、新しい街へのゲート開通だけでも充分な話材なのに、今回はいろいろオマケがあったからだ。曰く《軍の大部隊を全滅させた悪魔》、曰く《それを撃破した二刀流使いの五十連撃》……。尾ひれが付くにもほどがある。
どうやって調べたのか、僕たちのねぐらには早朝から剣士やら情報屋が押しかけてきて、脱出するのにわざわざ転移結晶を使うハメになったのだ。そしてエギルの元へと向かうとそこにはすでにキリト君が不機嫌面で居座っていた。
キリト「引っ越してやる……どっかすげえ田舎フロアの、絶対見つからないような村に……」
シュン「それいいな……畑でも耕すか……」
ブツブツ呟く二人に、エギルがにやにやと笑顔を向ける。
エギル「まあ、そう言うな。一度くらいは有名人になってみるのもいいさ。……どうだ、いっそ講演会でもやってみちゃ。会場とチケットの手はずはオレが」
キリト,シュン「するか!」
叫び、二人は右手のカップをエギルの頭の右横五十センチを狙って投げた。
エギル「おわっ、殺す気か!」
ぎゃあぎゃあと喚く店主を置いて、リュウとサクラがカップをソーサーに置いて僕たちを見た。
サクラ「で？何で私たちまで部屋を出なくちゃいけないのかしら…？」
リュウ「俺ら、昨日のことよく知らねえんだけど……」
シュン,キリト「『いろいろありまして……』」
サクラ,リュウ「それを話せっつってんだ」
口悪いな。
エギルは今、僕たちが昨日の戦闘で手に入れたお宝を鑑定している。時々奇声を上げているところを見ると、それなりに貴重品も含まれているらしい。
下取りしてもらった売上げはアスナと四人で山分けすることにしていたが、そのアスナは約束の時間を過ぎてもさっぱり現れない。フレンドメッセージを飛ばしておいたのでここに居ることは判っているはずだが。すでに待ち合わせの時刻から二時間が経過している。
僕の前の大きなポッドが空になり、エギルの鑑定があらかた終了した頃、ようやく階段をトントンと駆け上がってくる足音がした。勢いよく扉が開かれる。
『やあ、アスナ……』
遅かったじゃないか、という言葉を僕は呑み込んだ。いつものユニフォーム姿のアスナは顔を蒼白にし、大きな目を不安そうに見開いている。両手を胸の前で固く握り、二、三度唇を噛み締めたあと、
アスナ「どうしよう……3人とも……」
と泣き出しそうな声で言った。
アスナ「大変なことに……なっちゃった……」
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
