58話 『結晶無効化空間』 ページ11
貴方side
そう思う間にも、一人が斬馬刀の横腹で薙ぎ払われ、床に激しく転がった。HPが赤い危険域に突入している。どうしてそんなことになったのか、軍と、僕たちのいる入り口との間に悪魔が陣取っており、これでは離脱もままならない。キリト君は倒れたプレイヤーに向かって大声を上げた。
キリト「何をしている!早く転移アイテムを使え!!」
だが、男はさっとこちらに顔を向けると、炎に青く照らし出された明らかな絶望の表情で叫び返してきた。
「だめだ……!く……クリスタルが使えない!!」
キリト,シュン「『な……』」
思わず絶句する。この部屋は《結晶無効化空間》なのか。迷宮区で稀に見られるトラップだが、ボスの部屋がそうであったことは今まで無かった。
アスナ「なんてこと……!」
アスナが息を呑む。これではうかつに助けにも入れない。その時、悪魔の向こう側で一人のプレイヤーが剣を高く掲げ、怒号を上げた。
コーバッツ「何を言うか……ッ!!我々解放軍に撤退の二文字は有り得ない!!戦え!!戦うんだ!!」
間違いなくコーバッツの声だ。
キリト,シュン「馬鹿野郎……!!」
キリト君とシュンが叫んだ。結晶無効化空間で二人いなくなっているということはーーー死んだ、消滅したということだ。それだけはあってはならない事態なのに、あの男は今更何を言ってるのか。
その時、ようやくクラインたち六人が追いついてきた。
クライン「おい、どうなってるんだ!!」
シュンとキリト君が手早く事態を伝える。クラインの顔が歪む。
クライン「な……何とかできないのかよ……」
僕たちが斬り込んで連中の退路を拓くことはできるかもしれない。だが、緊急脱出不可能なこの空間で、こちらに死者が出る可能性は捨てきれない。あまりにも人数が少なすぎる。僕が逡巡しているうち、悪魔の向こうでどうにか部隊を立て直したらしいコーバッツの声が響いた。
コーバッツ「全員……突撃……!」
十人のうち、二人はHPバーを限界まで減らして床に倒れている。残る八人を四人ずつの横列に並べ、その中央に立ったコーバッツが剣をかざして突進を始めた。
キリト,シュン「やめろ……っ!!」
だが叫びは届かない。
余りにも無謀な攻撃だった。八人で一斉に飛び掛っても、満足に剣技を繰り出すことができず混乱するだけだ。それよりも防御主体の態勢で、一人が少しずつダメージを与え、次々にスイッチしていくべきなのに。
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作者名：さきっち
| 作成日時：2018年3月5日 0時
