【SAO】桜の舞姫 -アインクラッド編- (ページ10)

今日:7 hit、昨日:49 hit、合計:296,657 hit

8話　『茅場昌彦』ページ10

貴方side

一万のプレイヤーの頭上で、中身のない白手袋を左右に広げ、顔のない何者かが見えない口を開いたーーー気がした。直後、低く落ち着いた、よく通る男の声が、遥かな高みから降り注いだ。

〈プレイヤー諸君、私の世界へようこそ〉

咄嗟に意味が摑めなかった。
《私の世界》？あの赤ローブが運営サイドのゲームマスターならば、確かに世界の操作権限を持つ神の如き存在だが、今更それを宣言してどうしようというのだ。
唖然と顔を見合わせた僕たち、六人の耳に、赤ローブの何者かが両腕を下ろしながら続けて発した言葉が届いた。

〈私の名前は茅場昌彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ〉

キリト,シュン「な…………」

キリトくんとシュンが言葉を詰まらせた。
茅場ーーー昌彦。
数年前まで数多ある弱小ゲーム開発会社のひとつだったアーガスが、最大手と呼ばれるまでに成長した原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。
彼はこのSAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもあるはずだ。

〈プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソートアート・オンライン》本来の仕様である〉

クライン「し……、仕様、だと」

クラインが割れた声でささやいた。その語尾に被さるように、滑らかな低音のアナウンスは続いた。

〈諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない〉

この城、という言葉の意味を、僕はすぐに理解できなかった。このはじまりの街の、いったいどこに城があるというの？
僕の戸惑いは、しかし、次の茅場の言葉によって一瞬で吹き飛ばされてしまった。

〈……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合ーーー〉

一万人が息を詰めた、途方もなく重苦しい静寂のなか、その言葉はゆっくりと発せられた。

〈ーーーナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる〉

僕たちは、たっぷり数秒間、呆けた顔を見合わせ続けた。
脳を破壊する。
それはつまり、殺す、ということだ。
ナーヴギアの電池を切ったり、ロックを解除して頭から外そうとしたら、着装しているユーザーを殺す。茅場はそう宣言したのだ。