37話 『最前線は危ない』 ページ40
貴方side
困惑したような男二人の視線を受けて僕はお茶が注がれたカップを口に運び、一口飲んでからゆっくりと顔を上げて口を開くがそれが命取りだった。
『最前線は危ないよ』
再びアスナの右手のナイフが持ち上がり、さっきより強いライトエフェクトを帯び始めるのを見て、僕は慌ててこくこく頷いた。それに頭を抱える男二人に心の中で謝りながら意を決して言う。
『わ、解ったよ。じゃあ……明日朝9時、74層のゲートで待ってる』
手を降ろし、アスナはふふんと強気な笑みで答えた。
ーーーーーーー
一人暮らしの女性の部屋にいったい何時までお邪魔していいものなのかさっぱり解らないキリト君とシュンを託して、食事が終わるやそそくさと暇を告げた。建物の階段を降りたところまで見送ってくれたアスナが、ほんの少し頭を動かして言った。
アスナ「今日は……まあ、一応お礼を言っておくわ。ご馳走様」
シュン「こ、こっちこそ。また頼む……と言いたいけど、もうあんな食材アイテムは手に入らないだろうな」
『ふつうの食材だって腕次第だよ』
切り返してから、僕はつい、と上を振り仰いだ。すっかり夜の闇に包まれた空には、しかしもちろん星の輝きは存在しない。百メートル上空の石と鉄の蓋が、陰鬱に覆いかぶさっているのみだ。つられて見上げたキリト君がふと呟いた。
キリト「……今のこの状態、この世界が、本当に茅場昌彦の作りたかったものなのかな……」
なかば自分に向けたキリト君の問いに、四人とも答えることができない。
どこかに身を潜めてこの世界を見ているのであろう茅場は、今何を感じているのだろうか。当初の血みどろの混乱期を脱け出し、一定の平和と秩序を得た現在の状況は、茅場に失望と満足のどちらをもたらしているのか。僕にはまだ解らない。
僕とアスナは無言でキリト君とシュンの傍らに一歩近づいた。二人の腕に触れるとほのかな熱を感じる。
このデスゲームが開始されたのが、2022年11月6日。そして今は2024年10月下旬。二年近くが経過したも、救出の手はおろか外部からの連絡すらもたらされていない。僕たちにできるのは、ただひたすら日々を生きのび、一歩ずつ上に向かって進んでいくことだけだ。
こうしてまたアインクラッドの一日が終わる。僕たちがどこへ向かっているのか、このゲームの結末に何が待つのか、今はわからないことだらけだ。道のりは遥かに遠く、光明はあまりに細い。それでもーーー全てが捨てたもんじゃない。
343人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みさっと - アドバイスです。 もう少し書くのに間を開けてわどうですか? 内容は、凄く好きです! (2018年4月8日 17時) (レス) id: 0bc1c5e779 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さきっち | 作成日時:2018年2月18日 1時