好きです鈴木くん!! ～もう一つの恋物語～ Six (ページ29)

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261話　別れページ29

『今日は楽しかったわ、ありがとう。
最後にいい思い出ができてよかった』

Aの言葉に輝は目を見開いて唖然とした。
俯いているAを見ながら口を開く。

「「最後」…？」

訊き返すとAは俯いたまま『ええ』とはっきりと答えた。

『君とこうして2人で会うのはこれが最後』

輝から離れると冷たい目を向けた。

『爽歌が正式に巧さんと婚約するの。
だから私はそれに伴ってカイリとずっと一緒にいるわ』

衝撃な言葉だった。
輝はがく然と見つめる。
Aの冷たい目と冷たい言葉が胸に刺さる。

『鈴木輝。
君のこと好きだけど私に必要な人はやっぱり巧さんとカイリなの。
芸能界で成功するためにも、2人の後ろ盾は不可欠だわ。
一人の親友としても女優としても、きっと私を幸せにしてくれる。
君を好きになっても損するだけ。
でも、2人は私と爽歌の欲しいものを全部叶えてくれるわ。
そんなあたりまえのことにやっと気づいたの』

ーー1番ひどい言葉でわざと君を傷つける。

『打算的な人間だって軽蔑されてもかまわない。
私、どうしても女優として夢を叶えたいの』

どうか、許さないで。
最低な人間だって失望して。

「…っ嘘だ…。
オマエがそんなこと言うなんて…」

必死に言葉を紡ぐ輝にAはぎゅっと唇をかみしめる。

ーー君に嫌われないときっと何度でも恋しくて心が揺れてしまうから。

「木之本！！」

輝はAの肩をつかんで振り向かせると、彼女は優しい笑顔で輝を見上げた。
思わず肩をつかむ手が緩み、その隙にAは呆然としている輝の横を通り過ぎる。

『さよなら』

ーーAの笑顔は、あまりにも澄んでいて迷いがなくて、オレは身動きひとつできなかった。

キラキラと海が光る中、歩道を歩いていたAの顔はメガネが影になって見えない。
そして言葉にしたのはあの時の言葉。

『「もう2度と会えないなら、
好きな人の最後の思い出に残るのは、泣き顔じゃなくて笑顔でありたい。

少しでもあなたの瞳に綺麗に映りますように」…か』

ーー昔、別れのシーンのヒロインを演じた時そう思った。

頭に浮かぶのはあの時に見せた微笑みとさっき輝に見せた笑み。
どこか哀愁が漂うそれは、昔とは違う。

『……私はちゃんと笑えてたかな。
大丈夫。
きっと上手にできたよね……』

だんだんと涙が溢れてきて、頬を伝って地面に落ちていく。

『きっと、今までで1番、上手な演技ができたはず…』

ーー私、女優でよかった。